取材リポート
泥まみれの笑顔はじける
田んぼラグビー
熊本県・人吉ライオンズクラブ
#災害支援
#青少年支援

5年前の熊本豪雨をきっかけに始まった「田んぼラグビーin人吉」。人吉ライオンズクラブは青少年育成事業として、運営の一翼を担っている。子どもも大人も泥だらけで、笑顔いっぱいの大会を取材した。
田植えを前に水をたたえた田んぼに歓声が響く。田んぼラグビーのだいご味は、豪快なトライだ。頭から思い切り泥に飛び込むトライに、大きな拍手が沸き起こる。称賛を受けるのは、華麗なステップやパスワークよりも、どれだけ泥まみれになるかだ。
6月8日、人吉市矢黒町にある田んぼで、人吉ラグビーフットボール協会、人吉ラグビースクールと人吉ライオンズクラブ(馴田崇晴会長/28人)が主催する「第5回田んぼラグビーin人吉」が開かれた。
参加したのは、地元人吉だけでなく、八代市や山鹿市のラグビースクールの子どもたちや、県内各地のラグビー愛好家、外国人教員のグループなど約150人。大会を盛り上げようと熊本出身の元日本代表を含むプロ選手も参戦。ラグビー経験の有無も、年齢・性別・国籍を問わず、共にプレーを楽しんだ。

田んぼラグビーin人吉が始まるきっかけとなったのは、2020年7月に発生した熊本豪雨(令和2年7月豪雨)だ。人吉盆地を流れる球磨(くま)川は日本三大急流の一つに数えられ、鮎釣りの聖地としても知られる。7月3日夜から翌朝にかけて発生した集中豪雨で、その球磨川が氾濫(はんらん)。人吉市の市街地は5000戸近くが水につかった。
その前年、熊本市のスタジアムでラグビーワールドカップ2019の試合が行われてラグビー熱が高まり、人吉でも子どもたちのラグビー教室が開かれ、練習に励んでいた。しかし豪雨災害の発生後は、使用していた競技場に仮設住宅が建ち、ラグビーが出来なくなってしまった。そんな状況に、人吉ラグビーフットボール協会の横山隆一事務局長は「田んぼでならラグビーが出来るし、地域に活気をもたらせる」とひらめいた。被災した米農家を元気付けたいという思いもあった。
第1回田んぼラグビーin人吉は、被災から1年が経った2021年6月に行われた。

熊本豪雨では、人吉ライオンズクラブのメンバーも被害を受けた。当時の会長で美容室を営む竹原輝紀さんは、ビル2階にある店舗が浸水。自らはすんでのところで3階に逃れ無事だったが、店の機器類は全滅した。失意の中で、全国のライオンズによる支援に励まされた竹原さんは「あの時クラブ会長でなかったら、店の再開は諦めていたかもしれない」と振り返る。
2024-25年度の馴田会長も、自宅を兼ねた旅館の丸恵本館が浸水被害を受けた。被災後の対応に奔走する中、小学生の息子と共に第1回大会に参戦。クラブの新たな青少年育成事業になると、田んぼラグビーへの参画を提案した。人吉ライオンズクラブは第2回大会に協賛、第3回からは主催者として運営に加わった。
「田んぼラグビーを通じて、地域の子ども同士、また大人との触れ合いを密にしたい。泥だらけになって遊ぶことは少ないので、参加した子どもたちは楽しんでいると思います」(馴田会長)

今年の大会の朝、予報通り小雨が降りしきる中、人吉ライオンズクラブのメンバーは参加者の誘導や、テントの設営作業に当たっていた。会場は田植え前に水が張られた田んぼなので、開催はどうしても梅雨時になる。前回も、前々回も雨だったが、どうせ泥んこになるので雨降りでも全く問題はない。ただ、この日は開会式が終わる頃には雨が上がり、報道関係者やアマチュアカメラマンなど多くのギャラリーが見守る中、三つのフィールドで対戦が始まった。
フィールド内でプレーする選手は1チーム4人。タックルではなくボールを持つ選手にタッチして攻撃を止めるなど接触プレーがないルールなので、ラグビー未経験者も気軽にプレーすることが出来る。1試合の時間は8分間。途中で選手の交代はするものの、泥の中を走り回る選手たちは皆へとへとだ。馴田会長は桒原勝則次期会長らと共にチームを組んで今年も出場。「気持ちばかり走って足がついていかない」と言いつつ、全身泥だらけになって奮闘していた。
試合は得点による勝敗は競わず、互いに健闘をたたえ合ってノーサイドとなる。試合が終わると、選手たちは泥まみれのまま近くの小川へ。せせらぎの中に入って泥と汗を洗い流した。

人吉ライオンズクラブは大会本部に設置したテントで、飲み物やうどんを販売。選手たちは温かいうどんで疲れを癒やした。子どもたちのため、豪雨災害からの復興途上にある人吉のため、人吉ライオンズクラブは田んぼラグビーをますます盛り上げていこうとしている。
2025.07更新(取材・撮影/河村智子)
クラブ情報:人吉ライオンズクラブ
【会員数】28人
【結成日】1961年2月6日
【スポンサークラブ】宮崎ライオンズクラブ
【クラブの特色】最年少23歳から80歳台まで老・壮・青のバランスの取れた会員構成で、クラブ運営には40代の会員が中心的役割を担っている。長年にわたり献血に力を入れているが、2024-25年度は新たな試みとして、県立高校の2、3年生と教師、市民を対象に献血意志カードを発行した。高校の協力でオリジナルのイラストを使ったカードを作成。夏休み中に献血を体験してもらえるよう、1学期の終業式に合わせて生徒に配布した。
【例会日時】第1・3木曜日18:30〜
【例会場】㈲丸恵本館