取材リポート 小児がん克服を支援する
チャリティマラソン

小児がん克服を支援するチャリティマラソン

「小児がん」は15歳未満の子どもに見られるがんの総称だ。主なものは白血病や脳腫瘍、リンパ腫、神経芽腫で、日本では年間2000〜2500人の子どもが小児がんと診断される。かつては不治の病と言われた小児がんは、この数十年の医療の目覚ましい進歩で7、8割が治るようになったが、患者とその家族にのしかかる負担は大きく、病気による影響は治療後も長く続くことになる。

ライオンズクラブ国際協会は世界中で重点的に取り組む奉仕活動の一つに、小児がんを挙げている。2017年の協会創設100周年を機に定めた五つのグローバル重点分野(現在は八つ)の一つに選ばれ、小児がんを患う子どもとその家族のニーズを満たす支援の重要性が強く打ち出された。

マラソンのスタートを前に参加者全員で準備体操

国際協会が小児がんを重点分野に定めるよりも前、2014年から小児がん克服支援活動としてチャリティマラソンを開催しているのが、弥富ライオンズクラブ(犬飼将清会長/78人)だ。

11月12日、クラブ主催の第8回チャリティマラソン大会が、三ツ又池公園で行われた。市内を流れる宝川沿いの遊水池、三ツ又池を中心にした公園には、1周約2kmのウォーキングコースが整備されている。大会はこのウォーキングコースを使って四つのカテゴリーで行われる。一般の部10km、5km、2.5km、ファミリーの部(1組4人まで)2.5kmがあり、272組336人が参加した。コロナ前の参加者数は800人余りに上ったが、今年は岐阜県揖斐川町で行われるいびがわマラソンと日程が重なった影響か、少なめだった。

開会式会場に集まった参加者の中には、好タイムを狙って入念なストレッチをするランナーもいれば、時代劇から抜け出てきたような着物姿や人気アニメのキャラクターなど、凝った扮装で登場したランナーもいる。ファミリーの部には、3歳から小学生以下の子どもも参加出来るとあって、クリスマスや恐竜など、テーマでそろえたコスチュームに身を包んだ家族もいて、始まる前からほのぼのと楽しい雰囲気が漂っていた。

午前9時に始まった開会式で、犬飼会長は大会の趣旨をこう説明した。
「成人のがんでは早期発見が大切ですが、小児がんはそれが難しく、ある日突然発症して、長期の入院と治療が必要になると宣告されます。本人にとっても家族にとっても、精神的、社会的、経済的に大きな負担が生じます。このチャリティマラソンは、小児がんの子どもと家族が置かれた状況への理解を広めると共に、参加していただいて支援につなげることを目指しています」

大会参加費は1人(ファミリーの部は1組)4500円で、その一部が小児がん克服のための支援金となる。開会式では、小児がん患者とその家族を支援する二つの団体へそれぞれ30万円の支援金が贈呈された。寄贈先の特定非営利活動法人ゴールドリボンは、小児がん患者や経験者の生活の質向上、研究助成などの支援を通じて、小児がんの子どもたちが安心して生活出来る社会の創造に寄与。もう一つの一般社団法人名古屋小児がん基金は日本初の地域に根差した小児がん支援団体で、新しい治療法の研究・開発や治療環境の充実を支援している。

家族でマラソンを楽しむファミリーの部のランナーたち

弥富ライオンズクラブのチャリティイベントと言えば、以前はカラオケ大会が恒例で、収益は各年度の会長方針に沿って寄付していた。しかし9年前、新たなチャリティ企画を模索していた当時の伊藤公一会長が、ランニング人気の高まりを受けてマラソン大会の案を打ち出した。クラブメンバーの中に、国内外のトレイルランニング大会で活躍する獣医師の平林弘行さんがいたことから、その経験とネットワークを生かして大会を企画。チャリティの目的は小児がん支援とした。伊藤元会長は以前、同じ愛知県の一宮ライオンズクラブによる小児がん支援チャリティコンサートでゴールドリボンを知り、その活動に興味を抱いていた。クラブにとっては初めての取り組みだったが、2014年11月に開いた第1回大会には約250人のランナーが参加した。

大会の告知やエントリーに利用しているのは、ランニング情報のポータルサイト「RUNNET(ランネット)」。全国で開催されるマラソン大会の情報検索やエントリーが出来る他、大会レポートも見られる、ランナーにとって便利なサイトだ。これを利用することで、愛知県外からも参加者が集まってくる。

「がんサバイバー」としての体験を語るゲストランナーの牧野かおりさん(右)と、母親と共に大会に出場した山岡虹太くん(右から2人目)

この日のランナーの中には2人の「がんサバイバー」の姿もあり、走り終えた後には、参加者を前に自らの体験を語った。一人は、第1回大会からゲストランナーとして大会に協力している愛知県豊田市在住の牧野かおりさん。22歳で悪性リンパ腫と診断された牧野さんは、放射線と薬物療法の治療を受けてがんを克服した後、トライアスロンやウルトラマラソンに出場。また、ボランティア団体「LIVESTRONG(リブストロング)」を立ち上げて、がんとの闘いや生きる勇気について発信している。この日も「AYA世代」と呼ばれる15歳から39歳のがん患者に特有の困難について語り、理解を求めた。

「僕は小児がんの当事者でもあって、退院してからチャリティマラソンなどを走って活動しています。抗がん剤などの治療はつらいことも多かったんですが、たくさんの人の助けがあってこのように治っています。これからも、助けてくれた人に恩返し出来るように、活動していきたいと思います」

こう話したのは、京都市在住の小学6年生、山岡虹太くん。3歳で急性骨髄性白血病と診断された虹太くんは、半年に及ぶ入院と抗がん剤治療を経て退院したものの、2カ月で再発。4歳の時に骨髄移植を受けた。弥富ライオンズクラブのチャリティマラソンには小学3年生の時から参加。獣医ランナーの平林さんとの出会いをきっかけに、獣医師を目指していると言う。

この大会では、専門機器が必要なタイム計測などを除き、参加募集から会場設営、ランナーの誘導などの運営全般をクラブメンバーが担っている。ランナーの先導と、最後尾の伴走には、全国大会でも活躍する愛知黎明高校駅伝競走部の部員8人が協力してくれた。

クラブが所属する334-A地区3リジョン2ゾーンのゾーン・チェアパーソンでもある細江利夫大会委員長は、8回目を迎えた大会を次のように振り返る。
「第1回の大会を実施する際は手探りの状況でしたが、イベント会社に丸投げするのではなく、メンバー全員で手作りで開催してきました。この大会を通じて、今後も多くの方にライオンズクラブの奉仕活動をご理解いただきたいと思います」

また、会場内には、特定非営利活動法人全国骨髄バンク推進協議会と、難病と闘う子どもを支援する公益財団法人メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパンがブースを設けて活動への協力を呼びかけた他、地元のこども食堂によるフードドライブも行われた。
「今回はクラブが支援しているフードバンクがブースを出してくれましたが、これからはブースの数がもっと増えて、大きな広がりが生まれていくと思います」
犬飼会長は、参加者だけでなく大会をサポートする地域の団体が増えることで、より盛大な大会になると期待している。

大会終了後、告知に利用したポータルサイトには参加者のリポートが書き込まれる。今大会については「アットホームな大会」「入賞したかと間違うような参加賞(笑)最高」「また参加したい」など高く評価する人が多かった。大好評の参加賞は地元の野菜や米にカレールーが付いたセットで、「マラソン後にカレーを作るのが楽しみ」という人もいた。そして、次のようなコメントもあった。

「小児がんやAYA世代など、まだ世の中に正しく十分に知られていないことを広めていきたいというすてきな思いの詰まった大会でした」
「小児がん啓発のマラソンで、主催者の熱意を感じ、当事者の方の話も聞け、学びの多い大会でした」

大会のキャッチコピー「大地を駆けるよろこび あの子にも」に込められたクラブの願いは、参加者の心にしっかりと届いたようだ。

2024.01更新(取材・動画/河村智子 写真/田中勝明)