取材リポート 障がいの有無を超え
共に楽しむボッチャ大会

障がいの有無を超え共に楽しむボッチャ大会

10月22日、岩国市愛宕町にある総合運動施設「愛宕スポーツコンプレックス」内のカルチャーセンターで、岩国ライオンズクラブ(祖田由起子会長/41人)が主催する第1回ユニバーサルボッチャ大会が開かれた。

ボッチャはもともと、重度脳性まひなど四肢に障がいがある人のためにヨーロッパで考案されたスポーツだが、障がいの有無や年齢・性別にかかわらず楽しめるユニバーサルスポーツとしても知られる。パラリンピックの正式種目でもあり、50を超える国と地域で親しまれている。東京パラリンピックでは、個人戦で金メダルを獲得した杉村英孝選手を始め、ボッチャ日本代表選手の活躍に魅了された人も多いことだろう。

ボランティアの手も借りてボッチャのコートを準備

岩国ライオンズクラブの大会は、山口県内で障がい者スポーツの普及・振興を図ってきたボランティア団体「グラスルーツいわくに」や、学生ボランティアの協力を得て開催。岩国市内の障がい者施設や高齢者施設の利用者など、さまざまな背景を持った市内のボッチャ愛好者がチームを結成して参加し、日頃の練習の成果を発揮した。

クラブとボッチャの接点は、今年度福祉委員会の委員長である吉野一正さんと、グラスルーツいわくにの幸雅俊代表との出会いから生まれた。5年前に知り合った2人はボランティア談義に花を咲かせ、一緒に出来ることはないかと模索。これをきっかけに、グラスルーツいわくにが取り組む障がい者を対象としたフットサルとボッチャの活動を、ライオンズが支援することになった。

もともと岩国ライオンズクラブは、岩国市障害者サービスセンターへの支援を10年以上にわたり続けていた。センターの利用者と共に野球観戦やバーベキューに出かけるなど外出の機会を提供してきたが、コロナ禍によって活動は中断を余儀なくされた。

ただ、この活動機会の喪失は、クラブにとってこれまでの取り組みをじっくり見直すための時間になった。「自分たちの活動は障がい者への理解を広め、深めるために役立っていたか?」。クラブ内からそんな疑問も湧いてきて、コロナ禍が収まり障がい者支援を再開する時の「在るべき姿」が議論されるようになった。そのヒントとなったのは、パラアスリートの躍動に大きな注目が集まった東京パラリンピック。ちょうどその頃に、グラスルーツいわくにの幸代表が岩国ライオンズクラブに入会したこともあり、「障がい者スポーツ」が活動再開に向けたキーワードになった。こうして岩国ライオンズクラブの障がい者支援は、障がい者だけではなく誰もが楽しめるボッチャ大会として再始動することとなった。

大会に参加した42チームの顔ぶれは多彩だ。市内にある五つの障がい者施設や、高齢者施設のチームの他、施設利用者の家族や地元高校生らの混成チームなど、3人が1チームとなって総当たり戦とトーナメントを戦う。

ゲームに用いるのは赤、青、白のボール。最初に目標球である白のジャックボールを投球し、それから各チームが赤青それぞれ6球ずつのボールを投げ、ジャックボールとの距離の近さを競い合う。ルールが比較的簡単な一方で、ゲームの進め方や戦略性の高さから「地上のカーリング」とも呼ばれ、実際にやってみると、たいていの人がその面白さに夢中になると言う。

手でボールを投げられない選手は滑り台のような投球補助具を使う

会場内に8面設けられたコートには、審判と得点係が配置され、その役をライオンズメンバーと学生ボランティアらが担当した。果たして、そう簡単に審判が務まるものか、疑問に思って吉野委員長に尋ねてみた。

「ボランティアとして参加してくれた岩国医療センター附属岩国看護学校と岩国YMCA保健看護専門学校、朝日医療専門学校広島校の生徒さん、岩国商業高校野球部の皆さんとは、クラブの別の事業で関わりがあり、ユニバーサルボッチャ大会への参加協力をお願いしました。グラスルーツいわくには月2回障がい者を対象にボッチャの練習を行っているのですが、今年7月から我々メンバーとボランティアがその練習場を訪れ、審判の講習を受けました。講習を受けて3回ほどゲームの審判を務めれば、アマチュアの試合なら一通りはこなせるようになります」

これまで地域には、障がいの有無や年齢・性別にかかわらず大勢の人が集まって共に楽しめる機会はなかったと言う。岩国ライオンズクラブがこの大会を立ち上げて、ようやくそんな場が出来た。

「反省点もありますが、参加者の皆さんに助けられたところもあり、何とか形にすることが出来ました。次回の参加を希望する団体が増えてくることを期待しています」(吉野さん)

午前10時に始まったボッチャ大会は、決勝戦が始まる頃にちょうど昼時を迎えた。閉会式の後は屋外に場所を移して第2部が開幕。クラブメンバーの別チームが準備を進めていたバーベキュー大会となった。この日は好天に恵まれ、絶好のバーベキュー日和。参加者もボランティアも、炭火で焼いた香ばしい肉や野菜に舌鼓を打ちつつ、互いの健闘をたたえ合った。

2023.12更新(取材・動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)