取材リポート 手づくりのビオトープで
地元生まれの蛍が復活

手づくりのビオトープで地元生まれの蛍が復活

「水と緑の調和」をテーマに1978年に開園した上尾丸山公園は昨今、SNSの口コミなどの影響もあって埼玉県内で蛍を観賞出来る穴場として知られている。毎年6月になると、関東地方を代表する一級河川の荒川が近くを流れ、約15ヘクタールの敷地に雑木林と大きな池が広がる自然豊かなこの公園の一角に、たくさんの蛍の光が揺らめく幻想的な光景が生まれる。この公園で再び蛍が舞うようになったのは、ここ2、3年のこと。昔は至る所で見られたのだが、開発に伴う自然環境の変化で久しく姿を消していた。

「かつて荒川で飛び交っていた蛍を復活させよう」と、2003年のクラブ結成30周年に行った記念事業を機に、蛍の定着を目指して汗を流しているのが上尾ライオンズクラブ(前場伸治会長/71人)だ。上尾市から、公園内の池に注ぎ込む水路とその脇の園地の使用許可を得て「ビオトープ・ホタルの里」を一から造り上げ、管理と整備を行っている。


 
当初の計画は、公園内の水路を利用してメダカが泳ぐビオトープを造る、というものだった。コンクリート製のU字溝をつなぎ合わせた水路に段差を設けて水をせき止め、水たまりにメダカを放す計画を立てた。ところが、水路に流される水は夕方に止まってしまうので、夜には水たまりが無くなることが判明。そこで、専門家の手を借りて水路脇に井戸を掘り、新たな水の流れを確保して水たまりを維持出来るようにした。
 
そんな折、市の職員が相当数の蛍の幼虫を育てていることを知った。ゲンジボタルやヘイケボタルは、幼虫の期間を水中で過ごす。クラブが造ったビオトープで幼虫を育てることが出来れば、かつてこの辺りにいた蛍が復活するかもしれない。早速その職員にかけ合って幼虫を分けてもらい、ビオトープで育て始めた。

その後、自分たちでも蛍を確保しようという話になり、メンバーの一人が新潟県小千谷市にある実家周辺で成虫を採取し、上尾に持ち帰った。採取に当たっては生態系を乱さないように配慮。専門家の助言に従い、生息地域が異なる種の交配で遺伝子汚染が起こり得るゲンジボタルを避け、そのリスクがないと言われるヘイケボタルだけを選んだ。ビオトープの脇に卵を産める環境を整えた小屋を建て、持ち帰った蛍を放すと、約200匹が淡い光を瞬かせた。

これを機に、クラブは鑑賞会と称して市民を招き、小屋の中で蛍を間近で見てもらうことにした。蛍を手に乗せて観賞出来るとあって、SNSの口コミで話題になった。卵からかえった幼虫は小屋の中でしばらく育ててから、ビオトープに放つ。幼虫の餌となる巻貝のカワニナは、県内の別の場所で採取し放流した。

クラブはこの一連の取り組みを10年ほど継続。最初はなかなか定着しなかったが、次第に環境になじんできたのか、光を放つ蛍の数が少しずつ増えていった。

蛍を見守り続ける中で、その習性もだんだん分かってきた。それほど遠くへは飛んでいかないと知り、4年前からは自然発生に任せることにした。念のため、クラブメンバーらが自宅で幼虫を育ててはいるが、孵化(ふか)小屋を撤去し、新潟での蛍の採取もやめた。併せて水環境の整備を定期的に行った結果、水路の先に広がる大池周辺でも蛍が見られるようになった。

2023年には、6月10日の午後7時30分から蛍の観賞会を開催。310人の市民が来場し、暗がりの中でほのかに光を放つ蛍を観賞した。以前は6月中旬が見頃だったが、気温が上昇しているためか近年は6月初旬、早い時では5月下旬から蛍の光が見られるようになっている。

腐葉土をまいた場所では、カブトムシの幼虫がたくさん育っていた

クラブは最近、緩やかに水が流れる場所を好む蛍のために浅い池を造成。また、幼虫からサナギになる際に水から上がって土中に潜ることから、水路脇に腐葉土をまいた。11月25日に行った整備活動の際にこの腐葉土を掘り起こしたところ、たくさんのカブトムシの幼虫が見付かった。きっと蛍のサナギにとっても良い環境になっていることだろう。

事業を担当する上尾ライオンズクラブ街づくり委員会の中澤貞則委員長は、長年にわたる努力が目に見える形で実を結んでいることを実感している。
「上尾市が2023年の市制65周年を記念して募集した『あげおの魅力川柳コンテスト』で、最優秀賞に選ばれたのが『6月に 蛍に会えるよ 丸山で』という小学生の作品でした。子どもたちに夢を与えられるような活動が出来たと感じ、うれしかったですね」

クラブでは、2カ月に一度のペースで草刈りや水路にたまった泥のかき出し作業などを実施。初夏の鑑賞会で多くの市民に喜んでもらえるよう「ビオトープ・ホタルの里」の維持管理に努めている。

2024.01更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)