取材リポート 楽しく走って学ぶ
かけっこ教室

楽しく走って学ぶかけっこ教室

やや緊張した面持ちで50m走のスタート地点に立った子どもたち。本格的なレースさながら場内アナウンスで名前を呼ばれると、片手を高く挙げて一歩前へ。一礼してスタートラインに並ぶと、号砲と共にゴールへ向かって元気良く駆け出した。

これは12月3日、松山白鷺ライオンズクラブ(乗松宏吉会長/70人)が主催した第7回かけっこ教室の一幕だ。会場は、サッカーのJリーグや日本代表の試合も行われる愛媛県総合運動公園のニンジニアスタジアム(陸上競技場)。スタート地点の子どもたちの姿はスタジアムの大型ディスプレイに映し出され、走り終えた後には氏名とタイムが表示される。教室のキャッチコピーに「楽しく走れ! これで君もHERO!」とあるように、大型スタジアムでの体験を通じて、子どもたちに走る楽しさを味わってもらおうというという趣向だ。

学年別に参加の受け付けを行うクラブメンバー。この日はメンバー総出で会場設営や受け付けなどの裏方を務めた

かけっこ教室の参加対象は小学1年生から3年生の児童で、定員は各学年男女25人ずつの合計150人。松山市教育委員会の協力の下、市内の小学校を通じて案内を配布するなどして参加者を公募する。今回の応募者数は定員を大きく超える約600人に上り、その中から抽選で150人が選ばれた。

この教室で指導を担当するのは、一般財団法人愛媛陸上競技協会の織田英毅普及委員長と専門のコーチたち。開会式では乗松会長のあいさつに続いてコーチの紹介があり、早速、学年ごとに分かれて教室が始まった。

教室ではまず準備運動をしながら、基本的な体の動かし方を教えていく。走る時に重要になるのが、足の親指の付け根にある母趾球(ぼしきゅう)だ。2年生と3年生の教室では、母趾球を意識しながらジャンプしたり、素早く足踏みしたりする練習が行われた。1年生は直線コースを真っすぐに走る練習、3年生はハードル走や器具を使ったクラウチングスタートも練習するなど、学年ごとのメニューが組まれている。

約45分間の練習だったが、さまざまなゲームを交えながら体を動かすなど、集中力が途切れることのないように工夫が凝らされており、子どもたちは皆楽しそうに取り組んでいた。

50m走の前にタイム計測用のゼッケンを貼る

松山白鷺ライオンズクラブは2006年に「子どもの未来は まちの未来」という青少年育成ビジョンを策定。少年少女空手道選手権を開くなど、次の時代を担う青少年の育成に力を入れてきた。そして結成25周年を迎えた2017年に始めたのが、かけっこ教室だ。

当時会長を務めていた梅林哲次さんは、この事業を計画した理由をこう説明する。
「最近はかけっこをする場所がなくなり、走り方をよく知らない子もいます。子どもの体力が低下していることを踏まえて、運動の基本である走り方の教室を開いてはどうかと考えました」

そして、青少年向けのかけっこ教室を主宰する北京五輪400mリレー銀メダリストの朝原宣治氏を招き、25周年記念事業として第1回かけっこ教室を開催した。翌年の第2回は予算面の問題もあり、青少年委員長だった森史規さんを中心にクラブ独自の教室開催を模索。ニンジニアスタジアムや愛媛陸上競技協会、市教育委員会の協力を取り付けて、現在の教室の形が出来上がった。

練習が終わった後は、各学年の男女別で50m走を競い、各自のタイムを計測する。スタートを前に一人ひとりの名前がコールされると、緊張で硬くなっている子や照れくさそうな子、晴れやかな様子の子など、表情はさまざまだったが、スタートラインに立つと皆真剣な表情になって前を見つめた。

50m走が終わった後は、各学年男女の第1位と、コーチの補佐役を務めた中学生3人によるエキシビションマッチ。中学生には5mのハンデを付けてタイムを競った。力走を見せる9人に対して、他の参加者と保護者から大きな声援が送られた。

クラブはこの教室を更に有意義なものにするため、終了後、子どもたちの保護者を対象にアンケートを実施。過去のアンケートでは、「個々の指導をもっとしっかりしてもらいたい」「学校の運動会の前に開催してほしい」といった希望が寄せられた。開催時期については、指導を担当する陸上競技協会のスケジュールに合わせているので変更は難しいが、保護者の意見を把握して今後の教室に生かすことにしている。

「教室を始めた7年前には市内ではこうしたイベントはなかったのですが、最近では小学校高学年を対象に類似の催しを開催する団体もあり、反響が出ていると感じます。我々メンバーにとっては、子どもたちの笑顔を見られるだけで本望です」

そう話す今年度青少年委員会の越智伸二委員長を始め、裏方を務めたメンバーみんなが、笑顔で子どもたちの走りを見守っていた。

2024.02更新(取材・動画/河村智子 写真/田中勝明)