投稿リポート 炭坑の記憶をつなぐ
紙芝居を複製

炭坑の記憶をつなぐ紙芝居を複製

田川ライオンズ(124人)は今年度、クラブ結成60周年を迎えた。当クラブではこの節目の年に、新型コロナの感染防止に取り組みながら、どのような奉仕活動が出来るだろうかとさまざまな企画を検討していた。そんな時、地元の田川市美術館から「山本作兵衛の紙芝居が見つかったので、これを複製し、田川市内の小・中学校等に配布してもらえないか」という提案を頂いた。

山本作兵衛(1892~1984年)は、福岡県出身の炭坑労働者だ。約50年間にわたり18の炭坑で働いた後、60代半ばに宿直警備員となった頃から本格的に炭坑の生活を描き始め、1000点以上の作品を残した。彼の絵画や日記、雑記帳や原稿など計697点は、2011年に国内初のユネスコ記憶遺産として登録された。

紙芝居「筑豊一代」は、戦前から戦後にかけて筑豊(福岡県を4分割した地域の一つで、田川市もこれに含まれる)などの炭坑を渡り歩いた労働者の苦難の物語で、作家・王塚跣(おうつかせん)の同名小説を基にしている。1970年頃、元炭鉱労働者で牧師でもあった服部団次郎が「炭鉱犠牲者 復権の塔」の建設資金を集めるために小説の紙芝居化を発案し、作兵衛に作画を依頼した。200回程実演された後、長い間眠っていた紙芝居は2020年に飯塚市で発見され、田川市美術館に寄託された。

2021年は、「山本作兵衛炭坑記録画・記録文書」のユネスコの世界記憶遺産登録から10年の節目の年だ。くしくもその直前に紙芝居が再び日の目を見たことから、当クラブと美術館が連携し、筑豊の宝と成り得るこの紙芝居の複製を制作することにした。美術館には著作権の問題、文章中の用語等の見直し、絵画の精密複製等をお願いした。20枚セットの原画を元に、ほぼ原寸大のA3サイズで50部を印刷。市内の小・中学校の他、国内最大の炭坑地帯だった筑豊地区の図書館にも寄贈した。

2月16日、田川市役所にて紙芝居の贈呈式を実施した。筑豊地区一円で、この紙芝居が上演されていくことを願う。年配の方は昔を懐かしみ、若い人たちにとっては自分の故郷の歴史を学び、これからの故郷の発展に寄与する機会になればと思っている。

2021.03更新(会長/井上領平)