取材リポート シニア農園で育む
大地の恵みと奉仕の輪

シニア農園で育む大地の恵みと奉仕の輪

サッポロシニア ライオンズクラブが26年前から運営する「シニア農園」。収穫した農作物を福祉施設やこども食堂などに寄贈する他、植え付けや収穫祭には児童養護施設の子どもたちを招いて農作業を体験してもらう。多くの人を巻き込みながら活動を充実させてきたシニア農園の収穫祭を取材した。





ライオンズクラブが食育やこども食堂への支援を目的に設けている「ライオンズ農園」。全国に数あるライオンズ農園の中でも、眺めの良さでサッポロシニア ライオンズクラブ(小林八重子会長/43人)の「シニア農園」の右に出るものはないに違いない。なだらかな斜面に広がる畑からは「蝦夷(えぞ)富士」の別名を持つ羊蹄山を望み、周囲は見渡す限りの緑が波打っている。

虻田郡留寿都(るすつ)村にあるシニア農園は、ビートやジャガイモ、大根などを栽培する広大な吉本農園の一角にある。札幌市中心部からは車で約1時間半の距離だ。

トウモロコシの収穫の仕方を説明する松田農園長(左)と吉本さん

8月31日に行われた恒例の収穫祭には、札幌育児園の子どもたち8人、障がい者支援施設・光の森学園の利用者7人、両施設の職員に、ライオンズクラブ会員とその関係者総勢92人が参加した。シニア農園では6月に植え付けを行い、札幌育児園の子どもたちと一緒にトウモロコシやジャガイモ、カボチャ、大根の種をまいた。収穫祭では、二つの施設を招いてトウモロコシとジャガイモの収穫を体験してもらう。開会式を終えて畑に移動すると、松田純一農園長から収穫について説明を受け、作業を開始した。

「春にみんなが植えたのがこんなに大きくなったんだよ」
札幌育児園の子どもたちに声をかけるのは女性会員や、共にシニア農園の活動に取り組む札幌コスミックシニア ライオンズクラブのメンバー。育児園の子どもたちとは一緒に動物園に出かけるなど年間を通じて交流があるので、顔なじみの間柄だ。畑からは「ほら、でかい、でかい!」「見て、こんなにいっぱい!」という元気な声が聞こえてきた。

ジャガイモ掘りに夢中の子どもたち

収穫が終わると箱詰め作業。あらかじめ収穫して乾燥させておいたジャガイモを、皆で協力して段ボール箱に詰めていく。参加した二つの施設にはこの日収穫した分を持ち帰ってもらう他、ジャガイモは10kg入りを20箱ずつ寄贈する。シニア農園での作業は収穫祭後も10月半ば過ぎまで続き、カボチャや大根はクラブメンバーと家族で収穫して二つの施設と子ども食堂に届けることになっている。

「食育と言いますか、子どもたちに普段食べるものがこうしてできるんだと実感してもらえるようにしています。農園オーナーの吉本さんのおかげで、どれもとてもおいしいと評判です」(松田農園長)

取れたてのトウモロコシを両施設に持ち帰ってもらう

クラブがシニア農園の事業に着手したのは結成翌年の1999年のことだ。メンバーの会社が所有していた洞爺湖町の遊休地2ヘクタールを借りてスタート。初代農園長で青果会社会長だった故・高橋利明さんの尽力で活動の基盤が築かれた。作付けと栽培は地元農家の協力を仰ぎ、2年目の2000年秋にはジャガイモ30トン、大根3,000本、トウモロコシ1,000本、カボチャ700個を収穫した。収穫した作物は一部を社会福祉法人北広島リハビリセンターに寄贈し、大半は高橋さんの手配で卸売市場に卸して、収益をクラブの奉仕事業に活用した。

クラブの事業資金源となった市場への出荷はその後、諸事情によりできなくなったが、シニア農園はたくさんの人を巻き込みながら、活動の幅を広げていった。

サッポロシニア ライオンズクラブは2003年に結成5周年を迎え、女性だけのシニアクラブの結成を支援した。その札幌コスミックシニア ライオンズクラブがシニア農園の活動に共に取り組むようになり、主な支援先である札幌育児園に農作物の提供を開始。その後、収穫祭での作業体験、更には植え付けも一緒に行うようになった。

収穫したジャガイモはこども食堂、札幌市円山動物園にも寄贈。また、販売した収益をクラブの活動資金に充てる

2006年、洞爺湖町の農園では遠くて不便とのことで、シニア農園は留寿都村の吉本農園内に移った。当初からシニア農園の運営に協力してくれていた吉本康朗さんが、自らの農地を提供してくれたのだ。肥沃(ひよく)な土壌を生かして環境にやさしい農業に取り組む吉本さんは、シニア農園でも化学肥料や農薬の使用を極力減らし、質の高い品種を選ぶなど、子どもたちに安全でおいしい作物を食べてもらえるよう心を砕いている。ライオンズの奉仕活動に共鳴した吉本さんは、2014年に賛助会員としてクラブの一員になった。

「子どもたちはめったに土に触れることがないし、ここで伸び伸びしてくれればいい。ライオンズメンバーにとっても、こうして自分たちも楽しんでボランティアできるのがいちばんだと思います」(吉本さん)

シニア農園の活動を通じて、クラブに加わった仲間は他にもいる。会員の高齢化が進む中、農作業の担い手を確保して持続可能な活動にしようと2023年に発足させたのが、シニア農園の活動に特化したサッポロシニアあぐり支部だ。農園での作業に参加してもらったゲストの中で、活動に共感した人たちが集まった。現在、あぐり支部の会員は9人。今年の収穫祭でもゲスト参加者に「会員募集中」のチラシが配られていた。

箱詰め作業が終わり、クラブが用意した昼食の弁当をみんなで食べた後、施設の子どもたちを見送ったライオンズメンバーは、再び畑へ向かった。子どもたちが取りきれずに残った分を収穫し、自分たちでも味わうのだ。

この日、札幌から留寿都に向かう道中は小雨が降り、羊蹄山は雲に覆われていた。しかし収穫祭が始まる頃には雲間から青空が見え、参加者はみな心地良い汗を流した。充実した一日を終えたメンバーたちは、清々しく満足そうな表情で帰路に就いた。

2025.10更新(取材・撮影/河村智子)

クラブ情報:サッポロシニア ライオンズクラブ


【会員数】43人
【結成日】1998年11月19日
【スポンサークラブ】331-A地区キャビネット
【クラブの特色】現役を退いた世代の会員を中心に、知恵と経験を生かして奉仕しようと結成された。結成5周年には女性会員によるシニアクラブ、札幌コスミックシニア ライオンズクラブの結成を支援。また、全国のシニアクラブに呼びかけて全国フォーラムを開催するなど、シニアクラブの交流を図ってきた。奉仕活動ではシニア農園の他、薬物乱用防止やライオンズクエスト普及に注力。小中学校での薬物乱用防止教室は、過去15年間で延べ194校で実施し、受講者数は今年度中に2万人を突破する。また、文中で紹介したあぐり支部の他に、ライオンズクエストに特化したクエスト支部を発足させ、現役の教員や保育士など6人が在籍している。
【例会日時】第1・3火曜日18:00〜20:00
【例会場】三川屋会館