取材リポート
「将棋のまち」と
子どもたちを育む大会
大阪府・高槻ライオンズクラブ
#人道支援
#青少年支援

「将棋のまち高槻」として魅力ある地域づくりを目指す高槻市。その取り組みをバックアップし、子どもたちに将棋と触れ合ってほしいと開かれているのが「高槻ライオンズクラブ杯高槻小学生ふれあい将棋大会」だ。市が関西将棋会館を誘致したのを機にスタートし、大会と併せて、多くの子どもたちに将棋に親しんでもらえるイベントも行っている。今年で第3回となった大会は3月29日、安満(あま)遺跡公園のボーネルンド・パークセンター内にある多目的室で開催され、緊張感あふれる戦いが繰り広げられた。
2024年12月、JR高槻駅前に関西将棋会館が開館した。それに先立ち、日本将棋連盟が定めた「将棋の日」の11月17日に開かれた記念式典では、同連盟の羽生善治会長や藤井聡太七冠らがテープカットを行い、新たな会館の完成を祝った。
高槻市が全国の自治体で初めて日本将棋連盟と包括連携協定を締結したのは、2018年のこと。史上最年少でプロ入りし次々と新記録を打ち立てた藤井七段(当時)が大きな注目を集める中、関西将棋会館の移転実現やタイトル戦の誘致、高槻将棋まつりの開催などさまざまな取り組みを展開。「将棋のまち高槻」として文化振興と地域の活性化を図ってきた。

そんな「将棋のまち」を盛り立てようと、高槻ライオンズクラブ(古川善美会長/94人)は地域の小学生を対象にした将棋大会を企画した。高槻では大きな将棋大会が開かれるようになったが、出場するのは段位を持つ子やプロを目指すような子たちで、地域の子どもを対象とした大会ではなかった。
「地元の子どもたちが将棋に触れ合うことがなければ『将棋のまち』にはなりません。高槻の子どもが誰でも気軽に参加出来る大会を作ろうと考えました」
第1回開催時に担当委員長を務めた松本栄志さんは、大会を企画した意図をこう話す。
参加者の募集には市教育委員会の協力を得て、市内の全小学校で大会案内を配布してもらった。参加資格は高槻市内の小学4〜6年生。SNSやオンラインゲームなど子どもを熱中させるものがたくさんある今、将棋に目を向けてもらえるか心配だったが、2023年の第1回大会では定員32人に100人を超える応募があった。会場となったのは、高槻駅からほど近く、弥生時代の遺跡を生かした緑豊かな憩いの場で、週末には多くの市民が訪れる安満遺跡公園だ。
3月29日、第3回ふれあい将棋大会の当日は公園内で「ママ・マルシェ」が開かれていて、朝から多くの家族連れでにぎわっていた。今大会の参加者は女子児童3人を含む36人。開会式では高槻ライオンズクラブのメンバーでもある濱田剛史高槻市長があいさつし、「勝ち負けだけでなく、これを機にたくさんの将棋仲間を作ってほしい」と述べて参加者を激励した。続いて、同じくクラブメンバーで日本将棋連盟高槻支部の支部長を務める谷知雅文さんから競技ルールの説明があった。予選リーグは持ち時間10分の切れ負け戦(持ち時間が無くなった時点で負け)で、2勝で予選を通過する。決勝トーナメントに進んで1、2回戦を突破すると、準決勝は持ち時間20分、決勝は30分での対戦となる。
谷知さんは参加者に次のように伝えて、説明を締めくくった。
「対局は相手がいるから出来るものです。感謝の意を込めて、始めに『よろしくお願いします』、終わった時には『ありがとうございました』と言って礼をします。ただ将棋をするのではなく、礼儀も学んでもらえたらうれしいです」
予選リーグは「よろしくお願いします!」の元気な声と共にスタート。審判員を務める大学生ボランティア3人とクラブメンバーが見守る中、会場には駒を打つ音が響き、子どもたちは真剣な表情で盤面を見つめていた。

大会が始まったのと同時に、会場の外では屋外イベントがスタートした。自由対局や、はさみ将棋など将棋遊びの体験コーナー、輪投げコーナーが設けられ、誰でも自由に参加出来る催しだ。将棋をよく知らない子にも興味を持ってほしいと、第1回大会から同時開催している。
自由対局で子どもたちの相手を務めるのは、クラブメンバーや大学生ボランティア。多面指しで大学生と手合わせした子は、「強すぎる!」と驚きの声を上げていた。輪投げコーナーは小さな子どもたちに大人気で、親子の楽しそうな笑い声が響いた。

屋内では予選リーグが終盤を迎え、敗退して会場を去る参加児童の姿があった。メンバーは一人ひとりに記念品を手渡しながら「がんばったね」「また挑戦してね」と声をかけていた。
決勝トーナメントに入った会場はしんと静まりかえり、緊迫感が漂っている。将棋の対局は、一方が「負けました」と宣言するまで終わらない。悔しさを乗り越えて、対戦相手に敗北を伝えなければ勝負がつかないのだ。子どもたちにとっては、負けを認める勇気を知って成長する機会でもある。2回戦の対局でのこと、「負けました」と言った後に、対戦相手に「優勝してね」と小さく声をかけた参加者の姿が印象的だった。

準決勝2戦のうち1戦は、制限時間20分に迫る接戦となった。決勝に進んだのはいずれも6年生で、前回優勝者の信貴琉生さんと鈴木勇翔さん。2人は予選リーグでも対戦し、その時は鈴木さんが勝利を収めた。実力伯仲の決勝戦は長い対局になると予想されたが、張り詰めた空気が漂う中で局面は急展開を見せ、開始から約15分で信貴さんが2連覇を決めた。3位決定戦を制した松崎壮一朗さんはまだ4年生で、今後の活躍が楽しみな存在だ。優勝、準優勝、3位の入賞者には、古川会長から賞状とトロフィー、副賞のQUOカードが贈られた。
次回は子どもたちがどんな成長ぶりを見せてくれるか期待しつつ、クラブではこの大会を地域に根付かせ、「将棋のまち高槻」の魅力をより一層高めていきたいと考えている。
2025.05更新(取材・撮影/河村智子)
クラブ情報:大阪府・高槻ライオンズクラブ
【会員数】94人(2025年3月末現在)
【結成年月日】1961年7月15日
【スポンサークラブ】枚方ライオンズクラブ
【クラブの特色】30歳代から80歳代まで幅広い年齢層の会員が現役で活動している。クラブでは代々、各年代に途切れなく会員を迎えて世代間ギャップが生まれないように努力してきた。そのため、年齢が離れた会員間にも仲の良い祖父と孫のような雰囲気がある。例会出席率は約90%と高いのがクラブの自慢。青少年育成や環境保全、献血などさまざまな奉仕活動に取り組み、高槻市民ハーフマラソンではぜんざいと豚まんを販売して収益を奉仕事業に充てている。
【例会日時】第2・4火曜日18:30〜20:00
【例会場】アンシェルデ・マリアージュ