獅子吼 日本の未来を変える
ヤギ除草

日本の未来を変えるヤギ除草

第二次世界大戦の敗戦直後の日本では食料が少なく、赤ん坊がいる母親は母乳が十分に出ない中、農家では家畜としてヤギを飼って雑草を食べさせ、ヤギミルクを赤ちゃんに与えていました。1957年には国内で約67万頭のヤギが飼われ活躍していましたが、次第に需要は減り2013年には2万頭余りに減少。しかしその後、農村部などの過疎化や担い手不足が進む中で再びヤギの価値が見直され、少しずつではありますが増加し、2020年には3万数千頭になりました。

増加の要因は、除草目的が多くを占めています。特に限界集落などで、人手不足から荒れて不明確になっている人と野生動物との境界線(里山に見られる人間の手が加えられた場所)で、出合い頭の突発的事故を防ぐためにも雑草ややぶの木を食べるヤギを飼う農家が増えつつあるのです。一方、都市部ではヤギはもはや身近な動物ではなく動物園などでしか見られないので、ヤギに対する理解がなく、ヤギ除草はなかなか理解されず導入には時間がかかります。

環境保全や日本の食料自給率向上のためにも、ヤギやヒツジの役割は大きなものです。日本では家畜の餌の75%を輸入に頼っています。雑草(雑草という名前の草はなく、人間が利用していない草の総称)を主食とするヤギは、その点でも有効です。ヤギが増えれば雑草対策に頭を悩ませることが減る上、動物がもたらす癒やしの効果も絶大です。ヤギを見ているだけでストレスの70%が解消されたという研究もあります。

ライオンズクラブの地域清掃活動でも、ヤギが一役も二役も買うことが出来ます。草が伸びるとごみの不法投棄が増える悪循環に陥りますが、ヤギが草を食べている所にあえてごみを捨てる人はいません。耕作放棄地や空き地などでヤギが除草をすることで、地域のお荷物となっていた場所が憩いの場に変わります。

私がヤギ除草を考えるきっかけとなったのは、2012年に初めてモンゴル国を訪れ、大草原に感銘を受けたことです。造園業や緑地管理業務を請け負う我が社で仕事の一つとして刈っている草が、モンゴルでは家畜の餌となり、更にその肉が人間の食料となっていました。モンゴルは標高が高く乾燥地域で、草は1年間で膝くらいまでしか伸びませんが、日本では大人の背丈ほどにもなります。国産資源が乏しいと言われる日本において、雑草が家畜の餌になればすばらしいと思いました。早速ヤギを購入して耕作放棄地の除草を始めたところ、幼稚園の散歩コースになり、園児から「ヤギさんは次いつ来るの?」と聞かれるなど、地域とのつながりが生まれました。改善を繰り返しながら、工場や公園などヤギの活動場所は少しずつ増えていきました。

我が社では「アニマル除草」と命名して取り組むヤギ除草のメリットは、環境に良いのはもちろん、人には危険な急斜面もヤギにとっては問題なく普通に食事をする場所であること。草刈り機を使わないのでケガのリスクもなく、コストも削減出来ます。癒やし効果もあります。西洋では、アニマルセラピーを健康保険適用にしている国もあるそうです。

当然デメリットもあります。ヤギが身近な動物ではなくなり、生態を知らない人が大半です。ヤギは草食動物なので鋭い牙はありませんが、角があり防衛手段として頭突きをすることもあります。脱走防止のために、1.2m以上の柵を設置する必要があります。生き物ですから除草場所で糞(ふん)尿もするので、頭数バランスを見て出動させています。そもそも草ぼうぼうの場所には微生物が住み着いていて、これらを分解してくれるのですが。ヤギが臭いと言う人もいます。確かに雄ヤギには特有の臭いがありますが、雌や去勢した雄は全く臭いません。また、短時間で除草を完了させたい場所は、人が機械で行う方が良いでしょう。中長期的に管理しなくてはいけない場所で、ヤギ除草は非常に有効なのです。

柵をしてヤギを放ってから食べ終わるまでには、水やりなどの見守り役が必要です。高齢者や障がい者の方々に見守りをしてもらって賃金を払うことも考えられます。癒やされながら街がきれいになり、コストが下がり、雇用が創出される、このような循環が出来れば日本は持続可能な社会になると思います。進化とは新しい道具や方法を取り入れるだけでなく、古き良き昔のやり方を見直してみることでもあり、ヤギ除草はその最たるものだと思います。皆さん、想像してみてください。町のあちこちでヤギが草を食む姿を。

春日井中央ライオンズクラブの中でも、ヤギ除草による清掃に賛同や興味を示す仲間が生まれ、少しずつですが広がってきています。ライオンズの活動を通じて、より多くの方の協力を得られればうれしいです。また我が社にはポニーや羊などの動物もいて、市のイベントでは子どもたちの触れ合い体験も行っています。こうした取り組みも、ライオンズクラブの活動に生かしていけたらと思っています。
 
(20年入会/48歳)

2024.03更新