海外の活動 脱線事故で有害物質放出
ライオンズが被災者支援

脱線事故で有害物質放出 ライオンズが被災者支援

2023年2月3日の夜、オハイオ州イーストパレスチナを走るノーフォーク・サザン鉄道で、車両約50両が脱線する大事故が発生。そのうちクロロエチレンなどの危険物を積んでいたタンク車両11両に引火した。この小さな町で、現場からそう遠くない所に暮らしていたダレン・ギャンブルと妻のステラは、玄関の外に出て、急速に大きくなっていく炎をただ見つめるしかなかった。その夜遅く、市当局は爆発の恐れがあるとして住民に地元の高校へ避難するよう指示。2月5日には、現場から1マイル(約1.6km)圏内に緊急避難命令が出された。その後当局は、爆発を防ぐために危険なガスを抜いて燃焼させる「制御燃焼」を実施。町の上空に巨大な黒煙が立ち上った。

ギャンブル一家はいくつかの必需品を詰め込み、必死で14歳の双子の孫娘と3人の里子を連れてホテルへ避難した。そこで3カ月間滞在した後、80kmほど離れた貸別荘に移った。ダレンはその後も毎日、家族3代にわたって暮らし、その間に5人の子どもと大勢の里子が育った思い出の詰まった家を見回りに訪れた。そして妻のステラに、自分たちの庭の様子を伝えるのだった。ルバーブが立派に育っていたが汚染の心配があるため収穫出来なかったこと、祖母が植えたシャクナゲが誰に見られずともきれいに花を咲かせていること。ステラも我が家を見に行きたくて何度か試みたが、すぐにせきと吐き気に襲われ、鼻の周りには炎症が出て、あきらめざるを得なかった。事故後に健康に問題が生じたのは彼女だけではなく、孫娘の一人は鼻血を出したし、他にも多くの人が症状を訴えた。

「私たちは大きなストレスにさらされています。事態は良い方向へ向かうとか、新しい何かを見付ければよいと言う人もいますが、いったい何をすればよいのか分からないのです。考え続けることは耐えられないのに、考えることをやめられない。またあの家に住めるでしょうか? 何が汚染されているのか、私たちはずっと心配し続けなければならないのでしょうか? そこは自分たちの家なのに」
とステラ。貸別荘に入れたことは幸運だったとは思うが、バカンスのように楽しめるはずもない。まだイーストパレスチナで暮らしている、彼らの息子とその子どもたちのことも心配だ。

事故後、数日から数週間は、このニュースは全国的に大きな話題になった。環境活動家や政治家も視察にやってきたが、彼らが別の話題に移っていくのにそう時間はかからなかった。しかし住民の不安や健康上の問題、そして目に見えない危険に対する恐怖は何一つ消えていない。州は水道水の安全性を発表したが、6月になっても水道水を飲む人はほとんどいなかった。町中を流れる水路では、数千匹の魚が死んでいるのが発見された。

13OH4地区(オハイオ州)のキャロル・スナイダー地区ガバナーは事故発生直後から、地元のライオンズクラブにオハイオ・ライオンズ財団(OLF)への寄付と、保存食や衛生用品、介護用品などの提供を求めた。スナイダー地区ガバナーによると、地区内のほとんどのゾーンとクラブがさまざまな形で協力した他、全米からOLFへ寄付金が寄せられた。ライオンズは差し迫ったニーズに応えるために、OLFからの交付金とクラブの寄付金を活用して50ドル相当のギフトカード3万5000ドル分を購入し、住民に配布。また春には地元の食料品店に4000ドルのギフトカードを提供した。近隣のライオンズクラブのメンバーも現地に駆け付けた。脱線現場では大量の汚染土の除去が行われ、風がそれらを巻き上げる中でも、日用品やギフトカードを人々に配って回った。

「私たちはただ、少しでも助けになりたかったんです。発疹も頭痛も日常生活のストレスも先の見えない不安も、どれほどつらく苦しいことか。イーストパレスチナの困っている人たちへの支援に携われたことは、私たちの気持ちを和らげるものでした」

ステラは将来何が起こるか分からない不安の中にありながらも、近隣のみならず遠方からも寄せられたたくさんの親切に対して、心から感謝していると話している。

2023.11更新(国際協会配信 文/ジョーン・ケアリー)