取材リポート 4年ぶりに戻ってきた
夏を告げるほおずき市

4年ぶりに戻ってきた夏を告げるほおずき市

ほおずき市と言えば、江戸時代から続く夏の風物詩。7月に入り新盆(7月盆)の時期が近付くと、朱色の実を付けたほおずきの鉢植えを扱う露店が寺社の境内に並ぶ。東京・台東区の浅草寺や港区の愛宕(あたご)神社の市が有名だが、同じような光景は日本各地で見られる。

7月15日の土曜日、横浜市鶴見区にある鶴見神社の境内では「チャリティー」と銘打ったほおずき市が開かれた。主催は、横浜鶴見西ライオンズクラブ (菱田恒三会長/24人)。 今回で17回目となる恒例行事だが、新型コロナウイルス感染症の影響で過去3年間は中止を余儀なくされ、4年ぶりの開催となった。

境内には鶴見区社会福祉協議会に所属する作業所や鶴見神社の氏子会の露店も並び、横浜鶴見西ライオンズクラブはメインのほおずき以外にも、そばや焼き鳥、沖縄の揚げ菓子サーターアンダギーなどを販売する屋台や、毎回好評のバザーを出店した。

来場者のために用意された日よけのテントの下では、ほおずきを買い求めた人たちが思いおもいにくつろぐ姿が見られた。

開始から20年目となるチャリティーほおずき市について、前年度会長として再開に向け準備を進めた寺嶋之朗実行委員長に話を聞いた。
「道具はどこにしまってあるかとか、どのように進行していたかなど、忘れてしまっていたメンバーがほとんど。毎年続けていた時にはこんなことはありませんでしたが、備忘録を読み返しては、少しずつ思い出しながらの作業になりました」

3年という月日は想像以上に長かったようだ。ブランクを経ての実施に多少の苦労が伴うことは分かっていたが、想定外の事態もあった。
「この3年のうちに物価が上がってしまいました。仕入れ値が高騰したため、前回まで1500円で販売していたほおずきの鉢を、今回は2000円に引き上げざるを得ませんでした」(寺嶋実行委員長)

ほおずきも屋台で販売する食品類も、地域の人たちのためにと価格を低く抑えてきたが、それでは利益を出しにくいと判断して改定した。販売による収益金はクラブの奉仕活動の事業費として、鶴見区社会福祉協議会への支援や盲導犬育成といった地域福祉に還元される。

今回用意したほおずき300鉢はこれまでと同じ茨城県産だが、仕入れ先の園芸店によれば、調達先は以前とは異なると言う。物価高はさまざまな場所で影響しているようだ。クラブ内でも、これまで聞かれなかった意見が上がった。

「『価格を上げないと利益が出ないのであれば、ほおずき市を開くよりメンバーで寄付を出し合う方が良いのではないか』という声も実はありました。とはいえ、一つの目的のために皆で体を動かし、時間を使って、協力し合うことで生まれる一体感を、メンバーは皆楽しみにしています。汗を流す労力奉仕こそがライオンズの本懐ですから」
そう話すのは、7月に就任した菱田会長。地域の人たちが楽しみにしている催しでもあり、今後の運営については今回の結果を見て検討していきたいと話している。

午前10時にほおずき市が始まるやいなや、バザーに人が押し寄せるのはおなじみの光景。開始前から店の前で品定めをする人の姿もあり、我先にと目当ての品を手にしていた。バザー会場に陳列されている商品はメンバーや地域の人たちから提供された物や、地元スーパーから寄付された日用雑貨で、毎回ほぼ売り切れとなる。また、食べ物を扱う屋台からはおいしそうな匂いが漂ってきて、来場者を引き付けていた。

取材中、メンバーの一人が気付いたことがあると教えてくれた。ほおずき市開催の告知は、新聞広告や地元ケーブルテレビ、タウン誌でこれまでと同様に行ったが、以前に比べて若い人の姿が目立つというのだ。今年5月8日に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行してからは、再開されるイベントも増えてきた。以前のような日常が戻りつつあるうれしさから、これまで足が向かなかった場所へ出向いたのだろうか。あるいは、地域に根差した催しに関心を寄せる若者が増えたのかもしれない。若年層の来場の増加に、クラブでは新しい風を感じると期待を寄せている。

境内の奥に設けられたほおずきの販売ブースには、一鉢ずつ手に取ってじっくりと吟味する人たちの姿が終始見られた。

ほおずきには解熱効果や利尿作用があるとして、古くから薬として用いられてきた。漢字で「鬼灯」と書くのは、鬼が提灯(ちょうちん)に火を灯し邪気を払ってくれると信じられてきたからだ。鮮やかな朱色の小さな実には、ぜひとも感染症が引き起こした閉塞感を払い、地域に活気をもたらしてほしいものである。

2023.08更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)