海外の活動 地域を結び付ける
教育農園

地域を結び付ける教育農園

ミシガン州北部のアッパー半島にあるイシュペミングの町は、19世紀半ばには鉄鉱石の採掘で栄えたが、産業の衰退と共に人口が減り活気を失っていた。しかし今、緑豊かな農園が町を再生させ、新たな共同体意識が生まれている。週1回のコミュニティー・デーには多くの家族が農園に集まって畑仕事をし、料理を楽しむ。昨年夏の農産物の収穫量は1300kgを超え、地域の家庭に配られた。

ライオンズクラブ国際協会10地区(ミシガン州)の第2副地区ガバナーで、環境委員長でもあるイシュペミング ライオンズクラブのダン・パーキンスによると、アッパー半島で消費される食料の93%は平均で5000km離れた場所から運ばれている。そんな状況を変えられないかと考えていた2013年の春、変化のきっかけとなる出来事が起きた。その日、庭仕事を愛するパーキンス委員長は自宅の庭先でジャガイモの植え付けをしていた。すると近所の子どもたちが集まってきて「何をしているの?」「手伝ってもいい?」と興味津々に聞くので、種芋の植え方を教えてあげた。

「まさにその時、子どもたちは家族に安全な食材を提供する方法を学んでいたのです。そして私は、地域社会を生まれ変わらせる道筋を見いだしました」。彼が描いた「食育と地産地消による健康的な地域社会」というビジョンは、同じくライオンズ・メンバーの妻パムや近隣住民にも共有されるようになり、非営利組織の教育農園「パートリッジ・クリーク・ファーム(PCF)」が設立された。

2014年に誕生したPCFの最初の農園には、ボランティア100人の協力でビニールハウスが建設された。この時、敷地内の歩道の修復を担当したイシュペミング ライオンズクラブが農園の運営を担うことになり、後には10地区の支援事業として引き継がれた。農園は徐々に広がり、2019年には荒廃していたダウンタウンの一部が果樹園に生まれ変わった。採鉱地だったイシュペニングは岩が多くて土壌が薄く、冬には雪が多く地面が凍結するし、風も強いので農作物を育てるのに適した土地柄ではない。それでも彼らは、地元レストランなどから出る食品廃棄物とミミズの働きで堆肥(たいひ)を作り、大きな情熱と努力によって農園を成長させてきた。さまざまな組織とパートナーシップを結び、スタッフの育成にも力を注いだ。

イシュペミングの公立学校とのパートナーシップでは、農場と学校をつなぐファーム・トゥ・スクール・プログラムに取り組み、5年生と6年生を対象に、農作業や料理教室を含む28週間の体験学習を提供している。

PCFの農場は、コミュニティーのつながりを強めるのにも大きな役割を果たしている。この町に暮らすシングル・ファーザーのビリー・マーサーには、9歳の息子と4歳の娘がいる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えるビリーは思うように仕事や外出が出来ないことから、子どもたちはずっと町になじめずにいた。それが変わり始めたのは、息子のディランが8歳の時だ。その日、彼らの家の前にある果樹園では5、6年生が校外授業を受けていた。その中に、年少の男の子が紛れ込んでいるのを見付けた担任のツプロス先生は、カボチャへの水やりやミツバチが受粉媒介者となる植物の世話などを教えた。その男の子がディランだった。「それをきっかけに、私たちはコミュニティー・デーにも参加出来るようになったんです」と父親のビリー。「地域のために協力する人たちと一緒に過ごせるようになったのは、私たち家族にとって大きな幸いでした」。全ての教育農園には「自分を大切に。他者を大切に。庭を大切に」と書かれた手作りのカラフルな看板が立っている。ツプロス先生はそれに加えて、「そして母なる大地を大切に。私たちに必要なものは全て地球から生み出されるのですから」と話す。

9月。夏休みが明けると、5年生は春にタマネギを植えた畑で草取りをし、数週間後には収穫をする。これを農場のスタンドで販売するのが恒例だ。ファーム・トゥ・スクール・プログラムは好評で、小学1年生でも実施されるようになった。昨秋にはこれまでで最も広い農園が誕生した。収穫される野菜は、地元の老人ホームや学校のカフェテリアにも提供される予定だ。パーキンス委員長は言う。
「これらの成果は、地域での強力なコラボレーションと優れた教育のたまものです。何よりも農園がもたらした最も大きな収穫は、人々のつながりではないでしょうか。私たちはイシュペニングという小さな町を、誰もが住みたいと思うような町にしたい。それは誰も置き去りにされない、人にも地球にも優しい町です」

2023.05更新(国際協会配信 文/ジョアン・ケリー)