取材リポート 歩いて、見付けて、
福を授かる"七福神めぐり"

歩いて、見付けて、福を授かる”七福神めぐり”

前日の雨で一時は開催が危ぶまれた今年の「とね七福神めぐり」。当日の1月15日は天候が回復し、利根ライオンズクラブ(矢口浩一会長/11人)は新年恒例の催しを予定通り実施した。参加者は約13kmに及ぶコースを歩き、利根町内の七つの寺社にある七福神の石像を巡る。

節目の30回目を迎えた今年は約100人が参加。午前9時に開始を告げる花火が上がると、四つのグループに分かれ、スタート兼ゴール地点である利根町保健福祉センターの駐車場を出発した。

七福神巡りは、正月松の内(1月7日または1月15日まで)に福を招く七神が祭られた寺や神社を祈願して回ると、その年の福を授かるという信仰で、江戸時代に盛んになったと言われる。古くから続いている地域もあれば、町の活性化のために新たに始めるケースもある。利根ライオンズクラブのとね七福神めぐりはまさに後者。ライオンズ・メンバーが、町内外の人々に利根町の魅力を知ってほしいと企画し、作り出したコースを巡るもので、寺社から寺社へと徒歩で移動しながら、それまで気に留めていなかった地域の魅力に気付いてもらうことを期待した取り組みだ。

「クラブ結成5年目に何か大きな事業を始めようという話になり、ウォーキングのイベントが候補に挙がりました。議論を重ねる中で、『健康増進だけでなく、他にも目的があった方がよい』『町内の魅力を再発見出来るようなものにしたい』などさまざまな意見が出て、最終的に七福神巡りで話がまとまりました」
そう話すのは、クラブ結成当初からのメンバーで、この事業の成り立ちを間近で見てきた平田章さんだ。事業内容が決まると、隣接する取手市で七福神巡りを行っていた親クラブの取手大利根ライオンズクラブの例を参考に、企画を練り上げていった。

チェックポイントでスタンプを押してもらう参加者。参加費は1人300円、中学生まで無料

とはいえ、歩いて回れる範囲に都合良く七福神を祭る寺社があるわけではない。そこでクラブで七福神像を用意して、地元にある寺社に迎え入れてもらえるよう頼んで回ることにした。像は茨城県笠間市の石材店に特別に発注し制作。クラブの熱意に応じた七つの寺社をつないだルートを、七福神巡りのコースにした。景観の異なる新興住宅地と旧市街地、田園地帯をバランス良く通る道筋を選び、長距離を歩く参加者を飽きさせないように工夫を凝らした。

参加者は7カ所あるチェックポイントごとにスタンプを押してもらい、次の目的地を目指す。七福神を巡る過程で町の魅力に気付いてもらうことが目的の一つなので、コースマップには各寺社の見所などの説明を記載した。それによると、弁財天を祭る第二番の来見寺は徳川家康ゆかりの名刹(めいさつ)。境内には「松替えの梅」と呼ばれる梅の木がある。家康の目に留まった松の木を時の和尚が献上し、その返礼として江戸城から下された梅だと伝わっている。

大黒天を祭る第五番の蛟蝄(こうもう)神社の一帯には縄文後晩期の貝塚が残る。この神社の鳥居は、大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」の作中に登場する鳥居のモデルとなったことから、作品ゆかりの地として遠方から訪れるファンも多い。他にも、ルートからは少し外れるが、近くには旧利根町役場の跡地に建てられた柳田國男記念公苑がある。「日本の民俗学の父」と称される柳田は多感な少年期の2年間をここ利根町で過ごしており、記念公苑には少年時代を過ごした旧小川家の母屋と土蔵が移築されている。

蛟蝄神社の鳥居へ向かう参加者たち

とね七福神めぐりには、茨城県内や利根川を挟んで対岸に位置する千葉県の他、埼玉県や東京都など県外から参加する人も多い。近年は参加者100人余りで推移しているが、以前は400人近く集まったこともある。参加者はいくつかのグループに分かれて歩くが、各グループの先導役は町内のウォーキング愛好会である利根町歩く会に、コース上の要所要所での道案内役は利根ボーイスカウトに協力を仰ぎ、この催しを支えてもらっている。

コロナ禍で中止した2021年以前は、小休憩ポイントの第六番円明寺で甘酒を振る舞い、ゴール地点では大鍋で作った豚汁を楽しんでもらっていた。午前9時に出発し、歩き終えるのはちょうどお昼時。温かい豚汁は大人気で、これを楽しみにゴールを目指すという参加者もいたほどだ。22年に再開してからは感染予防のため赤飯とお茶を持ち帰ってもらっているが、今回も「豚汁はないの?」と残念がる参加者の姿が見られた。毎年楽しみにしている人が多いことを改めて感じさせられた一幕だ。

こうして長く続けてきたからこそ浮上してきた課題もある。参加者名簿を見ると、多くが70歳代のリピーター。「13kmを歩き通すのがきつくなった人も増えているのでは?」という声がクラブ内から上がっている。途中で歩くのが困難になった人のために救護車を待機させているとはいえ、このままでは体力面の不安から参加を断念する人が出るかもしれない。

過去には車いす利用者にコース途中までの参加で雰囲気を味わってもらったこともあり、クラブ内には「距離の短いコースも設けてはどうか」という意見もある。一方で、コースを短くすれば「七福神を巡る」という趣旨に合わなくなるので、悩ましい。楽しみにしている参加者の期待に応えようと、クラブ・メンバーで知恵を出し合っているところだ。

とね七福神めぐりがコロナ禍前の盛況ぶりを取り戻せるかは、今後の社会状況とクラブの取り組み次第だが、利根ライオンズクラブにとってかけがえのない活動であることは間違いない。

「メンバーが力を合わせて共に汗を流す、年に一度のこの活動を皆楽しみにしています。参加者はリピーターが多く、コースも内容も毎年それほど変わりないのですが、一緒に歩くライオンズ・メンバーも毎回何かしら新たな発見をしています。より多くの参加者の皆さんに利根町の魅力に気付いていただくと共に、七福神の福が授かるよう願っています」(平田さん)

この日ゴール地点でにぎわいを添えたのは、協力団体の「利根やっこ睦(かい)」の面々。13kmを歩き切り福を授かった参加者は、新年にふさわしいお囃子(はやし)と舞で迎えられた。

2023.03更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)