取材リポート 市民の憩いの森を
見守り続ける

市民の憩いの森を見守り続ける

伊勢市内には、伊勢ライオンズクラブ(西岡眞会長/70人)が「ライオンズの森」と呼ぶ里山がある。市街地の外れ、伊勢神宮・外宮の神域に接する「ロマンの森伊勢三郷山」だ。1979年から81年にかけて、県の生活環境保全林整備事業で整備された62.6ヘクタールの森林公園で、林間を縫うようにいくつかの周遊コースがあり、多くの市民に親しまれている。最高地点にある展望台からは、眼前に広がる伊勢平野と伊勢湾、その先の知多半島まで見渡すことが出来る。

伊勢ライオンズクラブは1996年、この三郷山に、春に白く美しい花を咲かせるコブシやシデコブシなどの広葉樹100本を植樹。更に2007年にはトチノキやホオノキを植え、案内板も設置した。その後も整備や保全を続けてきたこの森を、クラブ・メンバーは親しみを込めて「ライオンズの森」と呼ぶようになった。

伊勢ライオンズクラブが設置した散策路の案内板

2022年11月初旬、クラブは15年ぶりとなる大規模な整備事業に取り組み、散策路の14カ所にステンレス製の案内板を立て、危険箇所の転落防止用に9mの手すりも設置した。

この整備事業の実施に向けて、22年3月、メンバー数人が三郷山へ下見に訪れた。ふもとの駐車場から展望台のあるふれあい広場まで、上り下りが交互に続く約1.8kmの散策路をゆっくりと歩いてみると、片側が崖になっている所など危険を感じた場所が数カ所あった。更に、かつてクラブが設置した看板を含めていくつかの案内板が腐食。中には倒れているものもあることに気付いた。

「三郷山を地域の人たちが安全に散策を楽しめる場所として、長きにわたり活用してほしい」
そう考えていた今年度の西岡会長は、この下見ですぐにでも整備・保全が必要だと考え、事業計画に着手。三郷山を管理する浦口自治連合会の役員と数度にわたって打ち合わせをした結果、連合会では資金不足で出来ずにいた看板と手すりの設置を行うことに決めた。更に、今回の整備を機により多くの人に三郷山に親しんでもらおうと、11月27日に「森林教室」と名付けたイベントを開催することにした。

森林教室の参加対象は小学生とその保護者とし、山の上まで散策路を歩き、途中で拾ったどんぐりや落ち葉を使ってクリスマス・リースを作ろうと企画。9月に浦口町内にある小学校に案内を出した。初めての試みとあって、どれほどの申し込みがあるか不安だったが、当日は参加者58人、メンバーと関係者を含めて107人が集うイベントになった。中には、初めて三郷山に来たという親子も何組かおり、クラブによるPRは功を奏したようだ。

クラブにとって誤算だったのは、当日はどんぐりや落ち葉がほとんど落ちていなかったこと。散策路では浦口町内会が年間を通じて清掃活動を行っており、この日もきれいに掃き掃除がされていたようだ。幸い、クラブで松ぼっくりやどんぐり、市販のオーナメントなどの材料を用意していたので大きな支障はなく、花屋を営むメンバーの指導を受けながら、皆夢中になって飾り付けをしていた。自宅に飾ることを考えるためか、子どもに劣らず親も真剣に向き合っていたのが印象的だった。

誤算といえば、ふもとから散策路を登ってきたあるメンバーは、「こんなにきつい坂だったかな」と息を切らしていた。頂上までにはかなりきつい勾配が何カ所かある。25年前、15年前は難なく登れていた坂だが、当然ながらメンバーもその分だけ年齢を重ねた。そのため、体力に不安のあるメンバーはふもとで参加者受付を担当していた。

午前中の爽やかな空気の中で森林浴を満喫し、山上から市内を一望した後、クリスマス・リースづくりを楽しんだ森林教室は、昼には閉会。参加者には帰りに弁当を持ち帰ってもらい、無事終了となった。

週末の三郷山には、駐車場が満車になるほど多くの人が訪れるという。その大半が健康増進のためにウォーキングに励む人たちだ。
「クラブが整備に関わってきた三郷山を、大勢の人が憩いの場として利用してくれることが何よりうれしい」
そう言って頬を緩めた西岡会長は、地域の憩いの森の保全に今後も長期的に携わっていきたいと話していた。

2023.02更新(取材・動画/砂山幹博 写真/田中勝明)