テーマ市民の健康増進を図る
上山型クアオルトに協力

市民の健康増進を図る上山型クアオルトに協力
2012年に上山ライオンズクラブが完成させたウォーキング専用コース

9月21日早朝、上山市の葉山温泉街に近いクアオルト葉山コースの入り口に、上山ライオンズクラブ(粟野幸也会長/40人)のメンバーが集合した。これからガイドの案内で「クアオルト健康ウォーキング」を体験する。「クアオルト」については後に詳しく説明するが、上山ライオンズクラブは2012年に、この葉山コースの一部をなすウォーキング専用コースを作り、以来整備を続けている。メンバーはその作業のために何度もここを訪れているが、ウォーキングは未経験というメンバーも多い。そこで企画されたのが、この日の葉山クアオルトコース体験例会だ。

集合時間の午前6時前から、トレーニングウェア姿の市民が何人もコースの坂道を登っていった。体験例会には、クラブ・メンバーの一人で上山型温泉クアオルト事業の陣頭指揮を執る横戸長兵衛市長も出席。葉山コースでの早朝ウォーキングを日課にしている横戸市長は、毎朝顔を合わせる常連とあいさつを交わし、ひときわ軽快な足取りで歩き出した。

しばらく進んだところで、ガイドが心拍数を計るように指示。自分の体力に合わせて無理なく歩くことと、うまく汗を蒸発させてやや冷えるぐらいの体感に保つことが、クアオルト健康ウォーキングのポイントだ。更に進むと舗装道路から分かれる脇道があり、分岐点に「寄贈 上山ライオンズクラブ」と記された道標があった。林の中を縫うように通る細道が、クラブが作ったウォーキング専用コースだ。

計測ポイントで心拍数を計る上山ライオンズクラブのメンバー。目標心拍数(160から年齢を引いた数)を超えない程度のペースを維持しながら歩く。クラブが設置したウッドデッキの下から伸びる2本の大杉は、幹に触れてもらえるように「抱きつ木」と命名された

蔵王連峰のふもとに位置し、温泉地としての長い歴史を持つ上山市は、2008年から上山型温泉クアオルト事業を推進している。「クアオルト」はドイツ語で健康保養地・療養地の意味。ドイツでは温泉や海、森林など国が認定したクアオルトでの自然療法が医療として提供されている。日本では1971年、大分県の旧湯布院町(現在の由布市)が町づくりに取り入れたのが最初だ。上山市は郷土出身の歌人・斎藤茂吉がドイツ留学中に訪れた縁でドナウエッシンゲン市と友好都市になっており、同市や湯布院との交流を経て、地域の資源を生かした上山型温泉クアオルト事業をスタートした。

上山型クアオルトは、地域の豊かな自然や温泉を活用した運動指導によって市民の健康増進や病気予防を図ると同時に、交流人口の拡大による地域活性化を図り、官民一体となって「心と体がうるおうまち」を目指そうという構想だ。事業の中心になるのが、ドイツのミュンヘン大学の教授が提唱する「気候性地形療法」を基本にした、クアオルト健康ウォーキング。個々の体力に合わせて野山を歩き、太陽光・可視光線・清浄な空気・冷気と風の四つの要素による効果で心身を健やかにする。上山市には日本で唯一、ミュンヘン大学が認定した気候性地形療法の専門コースが八つあり、専門ガイドの養成にも取り組んでいる。

クアオルト健康ウォーキングのポイントの一つが、歩行中の体表面温度を2度程度下げて体表面をサラサラに保つこと。それによって運動効果が高まるという。水で腕や足を冷やして体表面の温度を下げるクナイプ式井戸もクラブが寄贈

上山市は2011年にクアオルト推進室を設置し、年末年始を除いて年間360日開催する「毎日ウォーキング」をスタートした。専門ガイドの案内で市内にあるコースを歩く催しで、誰でも好きな時に自分に合ったコースを選んで参加出来る。上山市民は無料、それ以外は有料で、温泉宿泊客の参加も多い。個人でウォーキングを始めた人や、学校や企業で取り入れる動きもあり、以前に比べて町中を歩いている人の数が目に見えて増えている。クアオルト事業の成果はデータにも現れており、市が18年に毎日ウォーキングに継続して参加している人とそうでない人の医療費を比べたところ、参加している人の方が平均で年間約5万2000円も少なかった。

そうした調査を経て、市では昨年度からはICT(情報通信技術)を活用した健康ポイント事業「かみのやま健康ポイント」をスタート。ウォーキングや体操などの健康行動に応じてポイントを付与することで、市民に楽しみながら継続出来る健康づくりを促す仕組みだ。更に今年8月には、県内の企業6社と健康経営推進に向けた連携協定を締結。上山型温泉クアオルト事業を従業員の健康増進や社員研修などに活用する取り組みも始まった。

葉山コースの途中にある花咲山展望台からは、市街地の向こうに蔵王連峰と三吉山が一望出来る

今や上山市民の生活の中にすっかり溶け込んでいるクアオルト。上山ライオンズクラブはそれがまだほとんど認知されていなかった頃から、事業推進のために支援を続けてきた。

クアオルト事業に関する支援を始める前、クラブが継続的に実施していたのは、市内にある県立山形盲学校の通学路を整備する活動だった。目の不自由な子どもたちが安全に通学出来るようにと続けるうち、それが呼び水となって通学路沿いの企業や団体が後に続き、それぞれに周辺を整備するようになった。そこでクラブはライオンズの役目は終わったと判断してこの事業から撤退。新たなニーズを探す中で目を向けたのが、スタートしたばかりのクアオルト事業だった。事業の構想を打ち出した横戸市長や、医療の立場から事業に関わる長岡迪生医師はクラブの一員でもあり、市民の健康寿命の延伸を目標とする事業の支援に乗り出すことになった。

新設した二つのコースには歩きやすいようにウッドチップを敷き、定期的な散布を行っている(写真提供/上山ライオンズクラブ)

上山ライオンズクラブが最初に取り組んだのは、花咲山にある葉山コース上にウォーキング専用の道を新設すること。メンバーが山の中を歩き回ってのルート探しから始め、森林の中に細い道を開いて、2012年5月に「クロモジコース」と「こぶし平コース」を完成させた。二つの道はマンサクやナツハゼ、クロモジなどの落葉樹が茂り、初夏にはヒメサユリが足元を彩る林を縫うように進み、森林浴に最適のコースになった。これに加えて、横臥浴用の石ベッド、ウッドデッキ、クナイプ式井戸なども設置。これらはドイツのクナイプ療法に用いられる設備を参考にクラブで発案したもので、クナイプ式井戸は放置されていた井戸を再利用して作り上げた。

それ以来、クラブは案内板や看板の作成、コース周辺の整備や清掃などに取り組んでいる。葉山コースの他にも、西山コースでは毎年10月に上山あららぎライオンズクラブと合同で清掃活動を実施し、結成50周年を迎えた2015年には、三吉山コースにバイオトイレを寄贈するなど、クアオルト事業の支援を続けている。

上山あららぎライオンズクラブと合同で実施する西山コースの清掃活動(写真提供/上山ライオンズクラブ)

クラブがクアオルト事業への協力に着手してから10年目にして初めて開いた葉山クアオルトコース体験例会では、クロモジコース、こぶし平コースを経由して頂上にある葉山神社まで片道約1.2kmを歩き、神社の参拝を終えて散会となった。

メンバーたちはウォーキングをしながらも、自分たちが手がけたコースや施設の状態が気になるようで、「看板が傷んできたから直さないと」「木の名前が分かるように名札を付けたらどうか」「ウッドデッキの杉が随分太くなったから修復しないと」などと話し合っていた。体験例会は次の活動に向けたリサーチにもなったようだ。

2021.12更新(取材/河村智子)

●山形県上山市
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