取材リポート 日本とイタリアの生徒が
オンラインで料理交流

日本とイタリアの生徒がオンラインで料理交流

ライオンズクラブは国際プログラムとして「ユースキャンプ及び交換(YCE)プログラム」を実施している。これは1961年に日本とアメリカのライオンズの間で行われた日米学生交換計画が元となったもの。国を越えて青少年を派遣し、違う文化に触れて国際的な相互理解を深めることで世界平和を主導していきたいというライオンズクラブの思いが込められている。日本の各地区とクラブはYCEプログラムに積極的に参加。毎年多くの青少年を海外へ派遣し、また海外から日本を訪れる青少年を受け入れている。彼らはこの経験を通じて多くを学び、大きく成長していく。

しかし2020年3月末、20年度の日本が関わるYCEプログラムの中止が決定された。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に伴ってのことである。11月には21年度の中止も決まった。2年続けての中止。海外はコロナ禍以前と比べ、とてつもなく遠い場所となった。

そんな中、国際交流の機会を途切れさせてはいけないと行動を起こしたクラブがある。それが336-D地区(島根県・山口県/2020-21年度 澤辰水地区ガバナー)6リジョン3ゾーンに所属する萩ライオンズクラブ(川原謙一郎会長/63人)、長門ライオンズクラブ(白石裕介会長/46人)、秋芳(しゅうほう)ライオンズクラブ(椎木誠二会長/13人)だ。3クラブは検討を重ね、3月8日にオンラインで国際交流事業を実施することにした。

計画から実現までオンラインで何度も会議や打ち合わせを重ねた

澤地区ガバナーは方針として青少年の健全育成、YCE活動の推進、地区内クラブの合同事業の実施などを打ち出した。3クラブによる国際交流事業はまさにこの方針に沿ったものだ。事業計画がスタートしたのは20年8月。これは、8月4日に長門ライオンズクラブが単独でオンライン国際交流事業を実施したことに端を発する。

長門ライオンズクラブは20年夏に2人の高校生をYCEプログラムでマレーシアに派遣する予定だった。派遣中止が決まったものの、何か代替事業が出来ないかと久永博司YCE委員長を中心に委員会で検討。パリにいる知人に頼み、YCEで派遣する予定だった生徒を含む5人の高校生とのオンライン交流事業をすることになった。フランス料理の調理法を英語で教えてもらいながら、それを実際に作ってみようという試みだ。Zoomを使ってお互いの映像も映す。飲食業を営み、農業高校などの料理体験で指導経験がある白石会長を中心にメンバーもサポートに入るが、コミュニケーションは高校生の主体性に任せた。この試みが大成功。フランス側とのコミュニケーションでは日本語を禁止したことも生徒たちには良い刺激となったようで、「貴重な体験が出来た」という感想が相次いだ。

合同事業は長門ライオンズクラブの事業を下敷きにして進められた。対象としたのはYCE事業で本年度受け入れ予定だったイタリアの生徒と、派遣予定だった日本の生徒を含む高校生。まずは岡田和好2017年度地区YCE委員長と、長門ライオンズクラブの3役及びYCE委員会が素案を作り、10月に第1回3クラブ合同会議を開催。並行してイタリアと日本の生徒及び保護者へ、実施目的、事業内容、十分な感染症対策の下に開催する旨を説明し、参加承諾を得た。また、活動地域に高校がない秋芳ライオンズクラブは教育委員会を通じて意欲のある中学生に参加してもらうことにした。こうして決まった参加生徒たちも交えて準備を進めていった。

長門ライオンズクラブの事業ではフランス料理を教えてもらうだけだったが、合同事業では更に一歩踏み込んだ交流が出来ないかと考え、双方が料理を教え合う形にした。また、生徒たちには自己紹介と自分の住んでいる地域についてのプレゼンテーション映像を作成してもらい、事前にそれを発表して互いの理解を深める日を設けた。

調理メニューは日本の巻き寿司と、トマトをベースにしたイタリアのパスタ料理、アマトリチャーナに決定。イタリアで巻き寿司の調理器具を手に入れるのは難しいので、日本から送ることにした。食材はイタリアの日本食販売サイトへ日本から発注。イタリア在住の長門ライオンズクラブ・メンバーの知人へ送付し、参加者本人へ届けてもらう手はずを整えた。

並行して、Wi-Fi環境があり調理や食事が出来る会場の手配、オンラインで各会場をスムーズに結ぶための機材の準備、通訳への準備段階からの参加要請、会場内の感染対策、関係各所への協力要請等々を進めていった。参考に出来るのは長門ライオンズクラブの事業のみ。今までに経験したことのない課題の連続だったが、3クラブで力を合わせて一つひとつクリアしていった。

そして迎えた当日。萩、長門の高校生はルネッサながとにある「リストランテ・アンジェラ」に、秋芳の中学生は赤郷公民館にそれぞれ集合した。16時30分から設営を開始。17時からは両会場をオンライン接続し、調整や確認をして18時の開会を迎えた。しかし、いきなり接続のトラブルが発生。急きょメンバーのスマートフォンでZoomに接続することになった。それでも両国の生徒たちは複数回の打ち合わせで既に顔なじみになっていたこともあり、そんなトラブルをものともせずに、打ち解けた様子で会話を交わす。オンラインゆえの多少のタイムラグや中断を苦にせず、活発に発言し、率直に意見を交換。調理や味付けには慣れていないようだったが、互いに身ぶり手ぶりを交えて悪戦苦闘しながら説明していた。約2時間という短い時間だったが、参加した生徒たちは非常に濃密な時間を過ごしたようだった。

日本の生徒が箸の使い方を教える一幕も

参加した生徒たちの感想を一部紹介する。
「実際に相手と英語でしゃべるのはとても難しいと実感しました。事業の運営や事前会議など英会話以外に学ぶところもあり、良い経験が出来ました」
「料理はとてもおいしく出来たので、家でも作ってみたいと思いました。Zoomを使って交流するのは初めてだったので貴重かつ、とても良い経験でした」
「私は今回の事業を通じて、前よりも少し英語が得意になったと思います。お互い料理を教え合って作っていくうちに知っている単語を見付けたり、友達に聞いたりして、少しは会話が聞き取れるようになりました」

Zoomのようなオンラインツールを利用すれば、コロナ禍で海外渡航が困難になってしまった現在のような状況下においても、さまざまな工夫をもって生徒たちの国際交流への情熱に応えることが出来ることが分かった。一方で接続トラブルなど技術的な問題が発生した部分もある。参加した3クラブはライオンズの奉仕を途切れさせてはならないという思いを新たにし、今回の反省を踏まえて2回目の実施も検討している。

2021.07更新(取材/井原一樹 写真提供/336-D地区6リジョン3ゾーン)