取材リポート 雨ニモ負ケズ
ウォーキングレッスン

雨ニモ負ケズ  ウォーキングレッスン

「ライオンズクラブに上下はありません」
これは、ライオンズクラブのメンバー間の関係性について説明する際によく言われる言葉だ。会長などの役職は1年で交代し、メンバー間に上下関係を作らず、ベテランも若手も皆が平等に奉仕の精神を持って事業を行う。これがライオンズクラブの基本的なあり方である。しかし、上下は確かに存在する。こう書くと「理念に反する実態があるんですね」と言われるかもしれないが、そうではない。いわゆる引っ掛け、冗談のような話であるが、「上下」という名のライオンズクラブがあるのだ。広島県東部に位置する府中市上下町と三次(みよし)市甲奴(こうぬ)町を活動エリアとしている上下ライオンズクラブ(中田洋志会長/33人)である。

上下町はかつて銀山街道の宿場町の一つであった。銀山街道とは、石見銀山で採掘した銀を港のある瀬戸内海へと運ぶために利用されていた道。江戸幕府が直接統治する天領となるなど商業の要衝となっていた。当時は両替商などが集まり、金融業が盛んだった。上下商人の資金力は強大で、幕府や明治新政府の財政を支えるほどだったという。取り立ての厳しいことで有名だった上下の商人たちだが、彼らは地元を支える活動もしていた。

第10回(2015年)のウォーキング大会の様子(写真提供:上下ライオンズクラブ)

文久2(1862)年、教育・農工業振興のために共助組織「勧業会」が作られた。明治44(1911)年、角倉銀行の頭取である角倉博佐(すみくら はくすけ)を中心に、勧業会の活動を引き継ぐ「蟻集(ぎしゅう)財団」を結成。出資金を株や国債で運用して公共事業や農業支援など国や地方自治体の力が及ばないところに出資し、地域の発展に貢献してきた。財団の付則に「いかなる場合に遭遇するとも解散することを許さず、永世これを継続すべきものとす」とあったが、2013年、活動資金難と後継者不在のため解散した。結成から解散まで行政からの助成を受けずに活動し、解散時にも残っていた資金を町のために寄付するなど、約100年間にわたって地元に貢献し続けた。

上下ライオンズクラブはこうした地元愛にあふれた土壌の上で活動している。クラブが事業の柱として実施してきたのが約30年前に始まった健康づくりウォーキング大会だ。市民の健康と、地域のつながりを強めることを目的に開始した。当初は上下町民会館から矢野温泉までを往復する約10kmをコースにしており、その後は上下町のショッピングクロスすいすいから翁山までのコースが主流となった。こちらも約10kmの道のりだ。翁山は上下町から見える山で、市民に親しまれている。午前中に出発し、クラブが提供する弁当を食べて帰ってくるのが恒例だ。

2020年春も実施する予定だったが、新型コロナウイルスが流行。2月末に中止を決めた。21年は何とか実施したい。クラブはその思いで準備を進めてきた。継続事業であることに加え、運動不足の解消や、人と人とのつながりを作るウォーキング大会は、コロナ禍である今だからこそ、より市民に必要とされていると感じたからだ。

今回は18年に完成した三次市甲奴健康づくりセンターゆげんきを出発点に、甲奴町の弘法山までを往復する8kmのコースを選んだ。上下ライオンズクラブには甲奴町在住の会員も多く、今回は甲奴町を起点にしたいという気持ちがあった。町を流れる上下川のほとりに咲く桜は周辺では有数の花見スポットだ。それを見ながら歩くコースを設定した。感染対策にも注意をし、何とか実施にこぎつけた。

大会当日を前に、広島県の新規感染者数は全国平均を大きく下回っており、問題なく開催出来る状況だった。ところが、実施予定の4月4日は1週間前から雨予報が出ていた。クラブでは様子を見ながら雨天時の対応を考えた。弁当を手配しているため、中止の場合も取りに来てもらうことをチラシには明記していた。しかし、せっかく来てもらうのであれば、何か少しでも意義のあることが出来ないか。そう考えたクラブは、歩き始める前に予定していたウォーキング講座だけでも実施することを検討。講師をお願いしていた方々に打診したところ、快諾。屋根付きの広場であるウイングドームを借り、雨天時でも参加者に楽しんでもらえる手はずを整えた。

晴天を願うメンバーの思いもむなしく2日前でも降水確率が80%と、雨が避けられない状況になったところで、クラブは集合場所をウイングドームに変更。雨天時のプログラムに切り替えた。参加者約100人にはメンバーが手分けして連絡し、改めて出欠の意思を聞いた。クラブが驚いたのは、ほぼ全員が雨天でも出席すると答えたことだ。それだけ参加者が待ち望んでくれていたイベントなのだと改めて感じた。

当日は予報通り雨。だが、雨天を見据えて早めに動いていたため、進行はスムーズだった。開会式を終え、ウォーキング講座がスタート。まずは府中北市民病院の中井訓治院長からウォーキングによる身体的、心理的効果の説明があった。参加者の半分近くは子どもだったが、中井院長の分かりやすい説明に飽きることなく耳を傾けていた。続いて歩く姿勢を整え、心と体の健康を促進させることを目的としたポスチャーウォーキング協会のスタイリスト、板橋千代美さんと奥平あつこさんによるウォーキングレッスンだ。

上下町の住民でもある板橋さんの、主婦の目線から始まった話は参加者の共感を得たようだ。そして何より美しく歩く姿は説得力抜群。「若い頃よりも今が一番健康です」の言葉に大人たちは刺激を受け、レッスンに積極的に取り組んでいた。1時間のレッスンだったが、参加者には大好評。保護者と子どもで楽しそうに話しながら実践していた。

最後に参加者に弁当を渡し、解散した

コロナの影響でなかなか思うように活動が出来ない上下ライオンズクラブだが、久々のイベントに手応えを感じた。家にいる時間が多い一年だったからこそ、外で体を動かす喜びは大きかったのだろう。参加者の反応も上々。来年からは雨天時にはウォーキング講座を行うことを明記して募集することを決めた。来年こそは上下川の桜を見ながら弘法山を目指し、山頂でみんなで弁当を食べる、いつも通りのウォーキング大会が実施出来ることを願って、クラブ・メンバーは帰路に就いた。

2021.05更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)