テーマ地域の誇り"清流・千種川"を
守り受け継ぐために

地域の誇り”清流・千種川”を 守り受け継ぐために

千種川(ちぐさがわ)は兵庫、鳥取、岡山3県の県境、江良峠(えらとうげ)に源を発し、兵庫県西部を南流しながら播磨灘に注ぐ。全長67km、流域には宍粟市(しそうし)、佐用町、上郡町、相生市、赤穂市の5市町がある。ダムのない自然河川として知られ、1985年には環境省選定の名水百選にも選ばれている。その紹介文の中で、小中高校生による水生生物調査や、流域のライオンズクラブの活動が取り上げられ、「地域住民活動を通じて保全に努めている」と記されている。

が、そんな千種川の清流が脅かされる時期があった。70年7月、佐用町の千種川本流域30カ所に、立看板が設置された。そこには「みんなで護ろう、千種の清流」という標語が書かれていた。翌71年12月にも同じものが、千種川支流域の30カ所に立てられた。

これは前年69年に結成された佐用ライオンズクラブによる啓発活動だった。クラブ結成と同じ69年に、兵庫県教育委員会の主導で千種川流域に青少年野外活動施設が設けられると、川を訪ねる人の数が急増。それに伴い、ごみもまた急激に増えていった。そのためクラブで川の清掃をやったり、ボーイスカウトの協力を得て広報車で呼び掛けたり、啓発用のビラを作って観光客や釣り人に手渡したりした。クラブでは当初、観光客や釣り人がごみなどを捨て川を汚すと考えていたのだ。が、ごみは一向に減らなかった。

そこで佐用ライオンズクラブの会員たちは兵庫県庁を訪問。当時、県公害課は毎月1回、千種川の流域から8カ所を選んで水質検査をやっていたのだ。調査結果を見るまで、会員たちは水そのものは奇麗だと思っていた。しかし水質調査の結果は、水自体も意外と汚れていることを示していた。しかも、その汚染源の大部分は生活排水であった。自分たちは被害者だと思っていたのが、実は加害者でもあったのだ。

佐用ライオンズクラブはここで方針転換。外の人に向けて啓発活動を行うのではなく、流域に住む人たちに川の実態を知ってもらうことにした。そこで目を付けたのが、奈良女子大学の津田松苗教授らが提唱する水質調査だった。これは、川にすむ水生生物を採集し、その種類などによって水質汚濁状況を判定するものだった。

会員たちはクラブ内で検討を重ねた末、出来るだけ多くの人に調査に参加してもらい、体験を通して川の状況を理解してもらうことにした。特に次代を担う子どもたちをターゲットにして、生きた社会科の教材にしようと考えた。早速、佐用郡教育委員会に掛け合い、郡内小中学校に協力を求めた。

最初の水質調査は73年7月、佐用保健所の山本逸夫検査技師の技術指導の下、実施された。調査には、260人の小中学生が参加。津田教授もこの活動に共鳴し、水生生物採集方法の手ほどきから調査結果のまとめまで、細かくフォローしてくれた。そして、その年の12月に採集データのまとめが完了。津田教授の校閲を得て、翌年7月『千種川の生態』という調査書が発表された。千種川に関する初の水生生物調査結果だった。

佐用ライオンズクラブによる水生生物調査はその後、千種川流域にある他のライオンズクラブにも波及。75年からは相生、赤穂、上郡、佐用、千種の5クラブ合同の活動として継続されることになった(2008年からは流域の女性会員で結成された光都ハーモニー ライオンズクラブが参加)。現在、源流部の宍粟市から河口部の赤穂市まで、流域62カ所において毎年約500人が参加し、水生生物の調査が行われている。

調査は、川の流速と水温、気温の測定から始める。このうち流速は、川の中で5mのひもを両方から引っ張り、ピンポン球を上流から流してピンポン球が5mを何秒で流れるかを測る。続いて50cm四方の枠を無作為に川の中へ置き、枠内の石を採取する。目の細かい大網を枠の下流に設置し、枠内をかき混ぜて水生生物を浮き上がらせ、網に追い込む。網と石は河原に広げた白いシートに上げ、ピンセットで虫や生物をつまみ、アルコールの入ったプラスチックケースに入れる。

水生生物の採集は約1時間で行い、出来るだけ一定の日の一定の時刻に実施する。そのため、千種川水系流域にある五つのライオンズクラブは、調査に協力してくれる学校や婦人会と日程を調整。毎年8月下旬、参加団体に集まってもらい調査の方法や注意点に関する説明会を開催し、学校の夏休み明けとなる9月初旬を中心に調査日を設定している。

採集した水生生物の集計は、「きれいな水にすむ生物」をA、「よごれた水にすむ生物」をBと分類し、式を当てはめて生物指数を出す。また生物のすむ水の様子で4階級に分け、更にその水にすむ生物の数の多少度で三つに分け、それに式を当てはめて汚染階級指数を出す。そして、この二つの方法で出た数字を基に、それぞれのポイントの水質を判断するようになっている。集計は翌年1月までに終え、各学校の卒業式前となる3月にはその年の調査結果を『千種川の生態』としてまとめており、同冊子は今回で第46集となる。

また、流域のライオンズクラブは03年に、千種川源流域の宍粟市千種町の山林1haを市から30年間無償で借り受ける契約を結び、これまでにブナ、コナラなどの広葉樹を中心に2500本を植樹。「ライオンズの森」として、5クラブ合同で管理をしている。更に今年6月17日には5クラブ主催により、さよう文化情報センターで「千種川フォーラム」を開催。千種川の環境を守るための活動を展開する外部団体にも参加してもらい、研究者を交えたパネル・ディスカッションを行うなど、活動の輪を広げつなげることも模索している。

今年1月に開催された「サイエンスフェア in 兵庫」(兵庫県教育委員会)には、水生生物調査に参加している千種高校の生徒が参加し、活動について発表。高校生たちは「調査に参加して、千種川にはたくさんの水生生物がいることを知り、清流を守ることの大切さが分かった。僕たちが受け継いでいきたい」と話した。佐用ライオンズクラブが始めた活動は確実に広がりを見せ、次代へしっかりと受け継がれているようだ。

※取材協力/兵庫県立千種高等学校
*335-D地区5リジョン2ゾーン:相生ライオンズクラブ(井上昌樹会長/7人)、赤穂ライオンズクラブ(中野実史会長/44人)、上郡ライオンズクラブ(小林敏明会長/22人)、佐用ライオンズクラブ(西威誠会長/11人)、光都ハーモニー ライオンズクラブ(北村洋子会長/8人)
2018.10更新(取材/鈴木秀晃 写真・動画/田中勝明)