取材リポート 楽しみながら社会に貢献
ハロウィンこども食堂

楽しみながら社会に貢献 ハロウィンこども食堂

松本市の繁華街にあり、大型商業施設の隣という立地から人通りが多く、年間を通してさまざまなイベントが開かれる花時計公園。10月15日、ここでハロウィンにちなんだ催しが行われた。松本深志ライオンズクラブ(藤森秀一会長/42人)主催の「第2回ハロウィン子ども食堂」だ。

午前10時の開場時には小雨がパラついて出足が心配されたが、天候は次第に回復。お昼時をピークに、各ブースに行列が出来るほどの大盛況で、昨年は800人ほどだった来場者数は約2000人と2.5倍となった。

イベントは主に四つのカテゴリーで構成されている。子どもたちにおなかいっぱいになってもらう「ハロウィンこども食堂」、ダンスや音楽など日頃の練習の成果を披露する「ハロウィンステージ」、クラフトやスポーツのワークショップ「ハロウィン体験」。そして、市民にライオンズの活動を知ってもらう「ライオンズの社会貢献活動」だ。

高校生までは参加費無料、大人は社会貢献活動に協力することで、子どもと同様に参加出来る。具体的には、会場内3カ所に設置されたレモネードスタンドでレモネードを飲むことで小児がん支援をする募金活動や、献血・献眼登録への協力、不要な外貨やペットボトルキャップ、また334-E地区(長野県)が2024年2月に行う予定のフィリピンでの医療奉仕活動で使うタオルの提供だ。会場の隣には献血ルームがあり、空きがあればすぐに協力することが出来る。ライオンズが日頃から行っている活動を、市民に直接伝えるために設けた仕組みだ。

前年度のクラブ会長で、このイベントの生みの親でもある吉岡直美さんに、その狙いを聞いた。
「私はライオンズクラブに入会する前からこども食堂の運営に関わっていますが、やって来る子どもの顔ぶれがほとんど変わらないことが気になっていました。もっと気軽にふらっと立ち寄れて、いつも来る子にも初めての子にも食事を楽しんでもらえる、オープンなこども食堂が出来ないものかと考えていました」

松本深志ライオンズクラブでは、それまでこども食堂に関する事業を行ったことはなかったが、家庭で余っている食品を持ち寄り、地域の福祉施設などに提供するフードドライブに関与したことはあった。他クラブの活動の応援で食品配布を行ったのだが、吉岡さんはその時にも、いつも同じ人たちに食品が渡りがちだと感じたと言う。

2022-23年度会長に就任した吉岡さんは、ライオンズクラブとしてこども食堂が出来ないかと考えた。これまでの自身の経験に、ライオンズが持つ地域での影響力や人脈をかけ合わせれば、これまで知らなかった人にもアピール出来、よりオープンで誰もが足を運びやすいこども食堂が実現するかもしれない。
「ただ、課題も見えていました。クラブに『こども食堂をやりましょう』と提案したら、必ず『集客はどうするの?』という話になります。その点は知恵を絞る必要がありました。そこで突破口となったのがハロウィンでした」(吉岡前会長)

松本市にはそれまで大きなハロウィンのイベントがなかったので、これをこども食堂と組み合わせてみようと吉岡さんは考えた。集まった人みんなが楽しめるし、こども食堂に行くのをためらっていた子どもたちも、ハロウィンのイベントであればきっと訪れやすいはずだ。更にクラブを取り巻く環境が、このアイデア実現の後押しとなった。

昨年度、334-E地区の方針に「心ときめく奉仕活動」が掲げられた。地区内クラブによる活動の中から「心ときめき賞」が選出されることとなり、「絶対にこの賞を受賞したい」という機運がクラブ内で生まれた。奉仕活動への意欲がより一層高まる中、「こども食堂に行くのがためらわれる状況をなくしたい」「せっかくなのでライオンズクラブの活動に参加してもらおう」などの意見がメンバーから出てきて、おぼろげながら理想的なイベントの姿が見えてきた。その時に描いた理想型を、2回目となる今回のイベントで実現することが出来た。

手探りの準備で何とか形にした初回も好評だったが、2回目はそれに輪をかけて、誰もが楽しめる充実した内容になった。例えば、こども食堂による炊き出しに加え、キッチンカーでもキーマカレーや唐揚げなど豊富なメニューが提供され、子どもたちにおなかいっぱい食べてもらうことが出来た。ステージでは、普段なかなか人前で披露する機会のない団体が多数出演。体験イベントではわら細工のハロウィンリース作りやクッキーアートなど、前回よりもメニューが増えた。体験はクラフトワーク以外にも、松本市をホームタウンとする3人制プロバスケットボール・チーム、信州松本ダイナブラックスの選手が駆け付け、子どもたちと一緒にフリースローを楽しんだ。

各ブースの運営者には材料実費に少し上乗せした資金をクラブから支給したが、運営者側はそのうち1万円ずつを寄付に回してくれた。今回のイベントでは、レモネードスタンドの収益金や協賛企業からの寄付金を合わせて、予想を大きく上回る23万4441円が集まり、全て小児がん支援のために贈呈された。

ライオンズのメンバーも仮装してハロウィン気分を盛り上げた

「この事業は周囲からの評価も高く、ライオンズの活動が確かに誰かのためになっているという実感があります。実は昨年は人手が足りず、会員以外の人にもボランティアで準備を手伝ってもらいました。皆一生懸命に取り組んでくれたこともあって、終了後も興奮が冷めやらず、『ライオンズクラブがこんな活動をするなんて知らなかった。こういう団体ならば参加したい』と、5人が入会してくれました」
ライオンズ以外の人を巻き込み、ときめきを共有出来たことが成功の要因だと、吉岡さんは話す。

今回、参加企業や団体が増えたことに、クラブは大きな手応えを感じた。今後は他クラブの力も借りて、市民と共に楽しみながら作り上げる社会貢献イベントとして成長させていきたいと考えている。

2023.11更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)