取材リポート 歴史ある町で
桜並木と文化財を守る

歴史ある町で桜並木と文化財を守る

旧出石(いずし)藩の城下町で「但馬(たじま)の小京都」として知られる豊岡市出石町。町のシンボルでもある明治時代初期の時計台辰鼓楼(しんころう)を始め、昔ながらの家並みが残る中心部は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、年間約80万人の観光客が訪れる。

そんな風情のある地区から少し離れた田園地帯を通る国道426号線出石バイパス沿いに、約1.5kmの桜並木がある。出石ライオンズクラブ(川見善明会長/31人)が2002年と11年の2度にわたってソメイヨシノ計115本を植樹したもので、同クラブによって「室見台桜畷(なわて)」と名付けられた。

「町内を通る国道に新しくバイパスが出来、周辺には保健福祉施設やスポーツセンターが建って様変わりしました。人の流れが多くなることが予想されたので、桜で町を盛り上げようと植樹を行いました。地域の人たちには喜んでもらっています」(川見会長)
造園業が専門のメンバー指導の下、川沿いの土手に重機で穴を掘り、杭打ちや苗木の固定を行うなど、メンバーが苦労してつくり上げた桜並木だ。

植樹事業は苗木を植えて終わりではない。出石ライオンズクラブは維持管理のために年2回、桜への施肥や除草、害虫対策の防除作業や清掃作業を行っている。桜が咲く前の3月は、下草が少ないため清掃作業が中心となる。道路沿いということもあり、ペットボトルや空き缶が捨てられているのが目立つ。

9月3日に行われた秋の整備活動の際には、桜を覆うように絡みつくつる植物が目立った。年に一度、国土交通省が下草刈りを行っているものの、植樹してから年月が経っていることもあり、雑木や雑草も繁茂している状態だ。

この日は、朝8時に集合して1時間ほどかけてつる植物を除去し、桜に施肥を行ったが、植樹した場所が斜面で作業が難しいこともあり、下草の除去までは手が回らなかった。クラブとしては一度、大々的な整備を行いたいと考えてはいるが、費用とマンパワーが十分ではなく実現に至っていない。植樹した当時は会員数も多く、整備活動も順調だったが、徐々に会員数が減ってきて活動にも影響が出始めているという。

何とかならないかと案じた川見会長は、3年ほどクラブの取り組みとは別に一人で草刈りを行ってみたが、さすがに1.5kmの範囲を単独で作業するのは無理があったと話す。川見会長をこうも駆り立てる理由の一つが「若いメンバーに過度の負担をかけることは避けたい」という思いである。出石ライオンズクラブは、メンバーの平均年齢が54歳と比較的若い。何か作業を頼めば、熱心に取り組んで素早くこなしてくれる。しかし若いということは、自身の仕事も忙しく、クラブの活動への参加が難しい場合が多々あるのだ。クラブでは今後、少ない人員でも桜並木を守っていけるように、外部の協力を得る方向で検討を始めている。

この日は室見台桜畷での作業の他に、出石明治館の植栽の手入れも行われた。明治館は旧出石郡役場として1887(明治20)年に建てられた出石町に残る唯一の洋館で、町の文化財に指定されている。建物の中には出石鳥瞰(かん)図がある他、出石の偉人展を常設展示する郷土資料館となっている。クラブはこの施設の指定管理を担当しており、1階にはクラブ事務局を置いている。

出石ライオンズクラブは過去にもこの出石明治館に事務局を設け、前述した偉人展の展示作成を支援するなど関わりが深かった。その後、事務局は別の場所へ移転したが、10年ほど前に市が施設の指定管理者を募集した際、縁を感じていたクラブが手を挙げて受託したという経緯がある。クラブは再び施設内に事務局を設け、見学者の受け付けや入館料の収納業務の他、施設の維持管理や修繕、観光資源としての活用や文化財知識の普及・啓発活動といった業務を担うこととなった。

「メンバーが集まりやすく、2階で例会も開けるので便利です。出石には古いものを守っていきたいという意識の高い人が多く、町の人からは『明治館のライオンズ』と認識されているようです。何より、出石らしい雰囲気のある建物の中に事務局があるというのが誇らしいです」(川見会長)

会員減少に苦労しつつも、地域の歴史と環境を守るために奮闘する出石ライオンズクラブ。歴史的建造物の保全に貢献する「明治館のライオンズ」、そして桜並木の手入れに汗を流す「桜畷のライオンズ」の地域への貢献は、多くの市民に認められている。

2023.10更新(取材・動画/砂山幹博 写真/田中勝明)