取材リポート 新そばの振る舞いで
心通わせる交流会

新そばの振る舞いで心通わせる交流会

芽室ライオンズクラブ(石場とよ子会長/24人)は10月24日、通所型障害者福祉サービス事業所「オークル」の利用者に手打ちそばを振る舞う「ふれあい交流会」を開催した。施設利用者とライオンズ・メンバーが、十勝が誇る食材の一つであるそばを通じて交流する恒例行事。ライオンズ・メンバーが打ったそばを味わうだけでなく、希望者はそば打ち(伸ばし)を体験出来るとあって、毎年この催しを楽しみにしている利用者も多い。

提供するのは、この秋に収穫された新そば。主に乾麺となって、道内はもちろん全国に出荷される「新得そば」の新そばを、打ち立てで食べることが出来るのだから、そのおいしさはひとしおだろう。

この交流会は、手打ちそばの同好会「蕎友(きょうゆう)」との共催で2011年に始まった。当時は、そば打ちは玄人はだしの同好会メンバーに任せて、ライオンズは施設利用者と一緒に食べて交流するのが役割だった。ところが、蕎友はメンバーの高齢化を理由に16年を最後に解散してしまった。会を主宰していた貫田正博さんが芽室ライオンズクラブのメンバーでもあったことから、翌17年からはクラブ主催とし、そば打ちも担当することになった。

事業が継続出来たのは貫田さんの存在が大きいが、クラブ内にそば打ちに興味を持つメンバーがいたことが功を奏した。貫田さんの手ほどきを受けて、メンバー数人が本腰を入れて挑戦した結果、新たに2人が打ち手となり活動の原動力となっている。

「そば打ちに興味があると言っても、いざ打つとなるとこれが難しい。私を含めて何人ものメンバーが打ち手に挑戦しましたが、なかなかうまく出来ませんでした。日頃から腕を磨いていればまだしも、年に一度の付け焼き刃ではかえって他のメンバーに迷惑をかけてしまう」
同クラブPR担当委員会の竹内司委員長はもどかしい思いを口にした。

とはいえ、打ち手以外にもやるべき仕事は山ほどある。当日振る舞うそばは、施設利用者と職員の分を合わせると約50人分にもなる。おかわりを見越して100食は用意しなければならない。そのため、前日の23日午後、町内にある貸し調理室に打ち手を始め数人のメンバーが集まった。前日のうちにそばを打っておき、そばつゆは貫田さんが自宅で手作りして、翌日オークルに持ち込む手はずだ。

当日には、利用者の体験用にそば生地を用意する他、薬味となるネギを刻み、大きな寸胴鍋でそばを湯がくための湯を沸かし、そばつゆを沸かさない程度に温めておく。タマネギやゴボウ、ニンジンを切ってかき揚げも揚げなければならない。ライオンズ・メンバーだけでは手が足りないので、メンバーの夫人2人が駆け付けて調理を担当した。

「2020年、21年はコロナ禍で中止も検討したのですが、利用者の方が『今年もおそばを食べたい。ライオンズクラブはいつ来るの?』と職員さんに尋ねていたという話を聞きました。そこで何とか実施する方法を考え、そば打ち体験と、皆で集まっての食事は見送ることになりましたが、5~6人の小グループ単位で時間をずらして食堂に入る感染対策を取り、そばの提供だけは行うことが出来ました」(竹内委員長)

そして今回、実に3年ぶりに皆で食堂に集まってそばが食べられることになった。また、施設に四つある作業班から各4人の希望者を募り、そば打ち体験も復活。コロナ禍を乗り越え、以前の姿に戻りつつある。

オークルの利用者が日頃行っている作業は、堆肥(たいひ)用資材の製造・販売や、家庭から出た廃油を原料にしたせっけんの生産、芽室町の資源ごみ袋の印刷、パンの販売など多岐にわたる。外に出て人と関わる作業が多いのが特徴だ。古川誠施設長に、施設の活動とライオンズとの交流会について話を伺った。

「私たちが大事にしているテーマの一つに、地域の旬のものを利用者さんと共有する、ということがあります。十勝で10月といえば、なんと言っても新そば。ですから、この交流会は私たちにとって本当にありがたい機会です。もう一つ大事にしてきたのが、外部の人たちと接する機会を多く持つこと。一般公募で決まった『オークル』という名前は、町の木である柏の『オーク(OAK)』と『来る』をつないだ造語ですが、『たくさんの人が集まって来る』という意味が込められています。ですから、多くの方に施設を訪問していただき、利用者さんにはさまざまな方と対人関係を築いてほしいと考えています。コロナ禍で接触が制限されてしまってはいますが、そばを通じての交流が変わらず続くのは喜ばしい限りです」

そばに添えるかき揚げに使った野菜は、オークル側で用意したものだ。その大半は近隣の農家から提供された野菜だが、その中には利用者が農作業に従事した畑の野菜も含まれている。黄金色のかき揚げが載ったそばは、だしの香りと相まって食欲をそそる。

全員に行き渡ったそばは、あっという間に平らげられ、厨房(ちゅうぼう)の前にはおかわりを求める人の行列が出来た。中には3杯、4杯とおかわりする人もいる。そばを楽しみにしてくれる人たちがいる限り、クラブはこの取り組みを継続していくつもりだ。

2022.12更新(取材・動画/砂山幹博 写真/関根則夫)