取材リポート 子どもと一緒に
防災を考えるラジオ番組

子どもと一緒に防災を考えるラジオ番組

「防災の授業では、どんなテーマに取り組んで、どんな学びがあったのかな?」
「僕たちのグループは災害が起こる前にどのような準備をすればよいか調べました。ローリングストック法という、家にある非常食を食べた分だけつぎ足すという方法が分かりました」

毎週月曜日の午後6時半から15分間、「VOICE CUE(ボイス・キュー)」の愛称で親しまれるFMみしま・かんなみで放送される「あつまれ!防災レオクラブ」。三島ライオンズクラブ(芹澤学会長/50人)のスポンサーで2021年4月に放送を始めたこの番組は、ゲストの子どもたちとのトークを通じて、防災に関する知識や情報を伝えている。パーソナリティーを務めるのは、同クラブ・アラート支部(水口勇支部会長/5人)のメンバー、髙橋麻子さんと風間浩さんのコンビ。地元消防団で活動する2人は、素人とは思えない軽妙で温かな語り口で、初めてのラジオ生放送に挑戦する子どもたちの緊張を解きほぐしていく。

ゲストの子どもたちと生放送開始前に30分ほど打ち合わせを行い、本番に臨む

2月14日の放送は今回で5回目になる「西小スペシャル」で、三島市立西小学校5年生の男子児童3人をゲストに迎えた。防災について学ぶ授業で取り組んだグループワークの成果をラジオを通じて発表しようと、1月から同校の5年生児童が交代で出演してくれているのだ。

3人のゲストが一人ずつ自分が学んだことを発表すると、防災士の資格を持つ髙橋さんはそれについて分かりやすく解説を加え、災害時に役立つ情報をリスナーに提供する。けいた君が発表したローリングストック法については「長期保存が出来る特別な防災食ではなく、身近な食品で賞味期限が長めのものを用意して、食べては補充するという方法。災害時にいきなり慣れない防災食を食べるのではなく、普段から食べておく方がいいですね」とコメントして、日頃の備えの大切さを強調した。

三島ライオンズクラブ・アラート支部は、2020年3月に結成された。クラブ支部の結成に向けて行動を起こしたのは、同クラブが所属するゾーンの長を務めていた前田康(すなお)さんだ。クラブの会員増強と同時に新しい奉仕活動の可能性を広げたいと考えた前田さんは、消防団で活動している仲間に働きかけてアラート支部の結成を実現させた。

アラート支部のメンバー5人は、三島市消防団団長の水口支部会長を始め、全員が地元の消防団の団員だ。その経験を生かして、防災フェアの開催や学校で子どもたちに防災知識を伝える活動に取り組むことを計画していた。しかし、支部が始動したちょうどその頃、全国的に新型コロナウイルス感染症が拡大。多くの人が集まる活動が出来なくなってしまった。そんな状況の中でも何か出来ることがないかと考えた末、たどり着いたのがラジオだった。

スタジオの外から見守る三島ライオンズクラブ三役。昨年7月にはそろって番組に出演した

災害時の情報伝達に大きな役割を果たすのがラジオ放送だ。東日本大震災発生から5カ月後に被災地の仮設住宅に住む500人を対象に行われた調査で、情報源として役立ったものにラジオを挙げた人は、震災当日で43.2%、3日後から1週間後で58.6%といずれも最も多かった。ライフラインが寸断された中、被災した人たちにきめ細やかな情報を届けて困難な避難生活を支えたのは、地域に根付いたコミュニティーFMだった。その役割は1995年1月の阪神・淡路大震災をきっかけに見直され、その後全国各地にコミュニティーFMが設立された。県東部をエリアとするボイス・キューは97年、阪神・淡路大震災の教訓を生かそうと三島市と函南(かんなみ)町、静岡新聞などが出資して開局。三島市総合防災センターの3階にあるスタジオから放送を行っている。

ラジオ番組の放送を企画した意図を、アラート支部の髙橋さんは次のように話す。
「今の子どもにはラジオを聞く習慣がありません。大災害で停電中に初めてラジオ放送を聞いたのでは、ものものしくて緊張してしまう。でも普段から聴き慣れていれば、ラジオから流れてくる声やジングル(番組の節目に流される短い音楽)が安心感につながります。そこで、もっとラジオに親しんでもらおうとこの番組を企画し、子どもたちに出てもらえば、その友達が聞いてくれると考えました」

番組では、「家の中の安全対策ポイント」「災害時に役立つアウトドアグッズ」「水害から身を守る」などさまざまなテーマを取り上げて、クイズを交えながらトークを繰り広げる。その台本作りは髙橋さんの担当だ。防災の情報を子どもたちにも答えられるレベルのクイズにして出題するのは、思いの外難しい作業だ。髙橋さんは防災教育を推進する団体の代表を務めていて、その知識と経験が番組作りに存分に発揮されている。

15分間という短い時間だが、番組の途中には同級生や担任の先生から3人に寄せられた激励のメッセージも紹介され、初めは固くなっていた子どもたちも次第にリラックスし生放送を楽しんでいる様子だった。これまで出演したゲストの保護者からは「親子で防災について考えるきっかけになった」など、感謝の声が寄せられている。

防災のスペシャリスト集団であるアラート支部のアイデアと実行力を、三島ライオンズクラブがサポートすることで実現した「あつまれ!防災レオクラブ」。昨年4月から1年間にわたり放送してきた番組は3月で終了するが、今後はYouTube(ユーチューブ)で情報を発信していく計画を検討中だ。

2022.03更新(取材・動画/河村智子 写真/宮坂恵津子)

●「あつまれ!防災レオクラブ」番組ホームページ
http://777fm.com/blog/blog-cat/cat149/