フォーカス
雇用とスポーツの両立で
福山を元気にしたい
菅田雅夫(広島県・福山LC)
瀬戸内海に面した福山市は広島市に次ぐ県内第2の都市で、人口は約46万人。鉄鋼や造船、機械産業などが集積する工業都市として発展してきました。「ばらのまち」でもあり、戦後、空襲で大きな被害を受けた街に市民がバラの苗木を植えたのがその始まりです。毎年5月には福山ばら祭が開かれ、市民の間には思いやりと優しさ、助け合いの心を表す「ローズマインド」という言葉が定着しています。我々が立ち上げた社会人野球クラブチームのチーム名も、「福山ローズファイターズ」と名付けました。
福山ローズファイターズは、私が理事長を務めるNPO法人福山スポーツ雇用サポートセンターを母体に発足したチームです。このNPOは2016年に地元の中小企業10社で設立したもので、正社員として働きながら本気でスポーツに取り組み、選手が引退した後も同じ企業で働き続けられる環境づくりを目指しています。若者たちがスポーツにも仕事にも打ち込める場所が出来れば地元への定着につながり、スポーツを通じて地域に活気を与えることが出来る。これは、これからの社会人スポーツの一つのモデルケースとなる取り組みだと考えています。野球を第一歩として他のスポーツにも広げていく構想で、次は2年後にサッカーチーム発足を計画しているところです。
この仕組みを生むきっかけを作ったのは、私が福山青年会議所に在籍していた頃からの仲間で、福山ローズファイターズの球団代表を務める橋本慎吾さんです。彼は高校時代に甲子園に出場して実業団で活躍しましたが、野球部引退と同時に所属企業を退職せざるを得なかった。橋本さんはその後就職した企業で力量を発揮し独立しましたが、それは誰にでも出来ることではありません。選手としてひたむきに努力したものの、競技引退後の人生で苦労する人が多いのが現実です。そこで、雇用とスポーツを両立出来るシステムを作ろうと、市内の企業に呼び掛けてNPOを設立しました。
当初、選手を受け入れる雇用支援企業は10社でしたが、現在は12社に増えました。業種はスーパーマーケットやガソリンスタンド、製造業などさまざまで、2社は東証一部、1社は東証二部上場企業です。12社の中には、私の会社を含めて福山ライオンズクラブの会員企業が3社含まれています。選手たちはそれぞれの職場で定時まで働き、仕事を終えた後に練習します。チームに入団するにはまず入団テストがあり、合格者には希望する企業の採用試験を受けてもらい、採用されて初めて入団となります。入団テストでは野球の技量はもちろん、社会人としての適正をよく見た上で合否を決めていますので、今のところ企業で不採用となったケースはありません。我が社(ホーコス株式会社)は主に工作機械の製造を行っていますが、現役選手4人と元選手1人が、生産管理と営業管理、総務の各部門で勤務しています。練習や試合のために若干の配慮をすることはありますが、他の社員と変わりなく働いています。
選手が引退した後には、学校の部活動やクラブチームの指導者として地域に貢献してほしいと考えており、そのためにも、福山ローズファイターズには一流の指導者、トレーナーをチームに招いています。総監督は地元福山出身でヤクルトや巨人で活躍した後、プロ・アマの指導を経験された浅野啓司さん、トレーニング指導は広島カープを中心に多くの選手を指導しておられる平岡洋二さんにお願いしています。選手たちには野球の技術と同時に指導力も養い、次の世代の子どもたちの育成に当たってほしいと思います。
現在、チームに在籍している選手のほとんどが福山以外の出身者です。このように流入人口が増えるのは喜ばしいことですが、我々としては地元出身選手も増やしたいところです。しかし、広島県内では野球に関しては西高東低で、高校野球でも強豪校は広島市を中心にした西部の地域の高校なんです。そこで今年(2020年)春、福山ローズファイターズの下部組織としてU-15(15歳以下)のクラブを作りました。いずれはU-20も作って、福山の野球をレベルアップさせていきたいと考えています。
福山ローズファイターズは今年秋の中四国クラブ選手権大会で2回目の優勝を果たしました。春に行われる全日本クラブ野球選手権大会の中四国予選にはまだ出場したことがありませんが、予選を勝ち抜く力は十分にあると見ています。夢は東京ドームを舞台に闘う社会人野球最高峰、都市対抗野球に出場することです。
球団運営には、賛助会員企業や市民サポーターの皆さんのご協力を頂いており、福山通運や洋服の青山など福山を代表する企業が企業サポーターとして応援して下さっています。また、福山市が地元で生み出された創造性あふれる産品や活動を認定・登録する「福山ブランド」に、福山ローズファイターズを選んで頂きました。今後もより多くの市民の皆さんに愛され、スポーツを通じて地域に夢と希望を提供出来るようなチームを育てていきたいです。
2021.01更新(取材/河村智子 写真提供/NPO法人福山スポーツ雇用サポートセンター)