テーマ 高知の骨髄バンク推進を
けん引する支援活動

高知の骨髄バンク推進をけん引する支援活動

白血病などの血液疾患で国内で移植を必要とする人は、少なくとも年間2000人以上。現在は骨髄バンクを介して、その6割に当たる1200〜1300人が移植を受けている。骨髄や抹消血幹細胞の提供者(ドナー)となる人を登録して患者と結び付けるのが骨髄バンク事業で、公益財団法人日本骨髄バンクを主体に、日本赤十字社(以下、日赤)と都道府県の協力で進められている。

国内のドナー登録者数は2019年2月に50万人を突破し、今年8月末時点では52万8586人となった。登録者が50万人に達したのと同じ月、競泳女子の池江璃花子選手が自身の白血病発症を公表したのをきっかけに、骨髄ドナー登録への関心は急激に高まった。09年から骨髄バンク支援に取り組む高知黒潮ライオンズクラブ(山﨑怜子会長/71人)は、普段は献血ルームなどを会場に月4〜5回のペースで登録会を開いているが、この時は血液センターの要請で回数を増やして対応。2月から3月にかけての1カ月の登録者数は通常の4倍以上の100人に達した。この間、高知黒潮ライオンズクラブの活動は新聞やテレビのニュースで度々報じられた。中でもクラブが15年に立ち上げたドナー助成基金は民間団体による全国唯一の助成制度として注目され、19年3月末にNHKの高知放送、4月には全国放送でその取り組みが紹介されることになった。

日本骨髄バンクが設立されたのは、1991年12月のことだ。設立を求める声は80年代半ばから高まり、ライオンズクラブでも京都府・福知山東ライオンズクラブが早期設立に向けた運動を展開している。89年10月に民間の東海骨髄バンクが誕生すると、334-A地区(愛知県)が骨髄バンク支援を地区の主要プログラムに取り上げ、セミナーやチャリティー・イベントを開催した。その後日本骨髄バンクが設立されると、支援の動きは全国のクラブに広がった。

高知県では92年4月、336-A地区(四国4県)の下司孝麿元地区ガバナーが中心になって、高知県骨髄バンク推進協議会を設立。協議会は今も県内の会員一人当たり月100円の協力金で運営され、県民を対象にした講演会やドナー登録会を開くなど推進活動に取り組んでいる。協議会会長は初代の下司元地区ガバナー、2代目の宮地健三元地区ガバナーとライオンズ会員である医師が務めており、2005年に会長に就任した内科医の依光聖一医師は、同時に高知黒潮ライオンズクラブに入会した。この年高知では血液疾患に苦しむ地元大学生を救おうとドナー登録が急増したが、一時的な盛り上がりに終わってしまった。そこで依光医師は、より積極的な活動に継続的に取り組む必要があると考え、高知黒潮ライオンズクラブにドナー登録会の開催を提案。クラブは以来、骨髄バンク支援に大きな力を注いでいく。推進協議会の活動でも高知黒潮ライオンズクラブが中心になり、現在は同クラブ会員の医師、溝渕樹会長と吾妻美子副会長が運営を担う。毎年10月に協議会が主催する講演会では、移植を受けた患者やドナーの体験が語られるのが恒例。昨年で第27回を数えた講演会には、看護学校の学生に参加を呼び掛けるなど特に若い世代への啓発を図っている。

高知県骨髄バンク推進協議会の講演会は骨髄バンク推進月間の10月に開催しているが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止した

高知黒潮ライオンズクラブが主催するドナー登録会は、毎月1回、献血ルームで開かれる他、大型商業施設のイオンモール高知や県庁などの役所、学校などを会場に、年間50回ほど開催される。ドナー登録を行うにはさまざまな要件があり、登録会では日本骨髄バンクが認定する骨髄ドナー登録説明員が説明して、よく理解してもらった上で登録手続きを進める。高知黒潮ライオンズクラブでは会員23人がこの説明員の認定を受けている。説明員になるには座学の説明員養成研修と実地研修を受ける必要があるが、高知黒潮ライオンズクラブの場合、協議会の吾妻副会長がその指導員の資格を持ち、身近なところで研修が受けられるという大きなメリットがある。今期の山﨑会長は入会して間もなく参加したドナー登録会の活動に触発され、すぐに説明員の資格を取得した。大勢の人が集まる商業施設での登録会では、会員が通路に立って通りがかりの人に声を掛けて登録を呼び掛けるが、最初は戸惑いもあったと言う。

「声を掛けても無視されたり、嫌な顔をされたりして、ほとんどの人は素通りしていきます。始めは落ち込むこともありました。それでもめげずに声を掛け続けると、数十人に一人ぐらいは足を止めて説明に耳を傾けてくれます」(山﨑会長)
「とにかく積極的に声を掛けて、100人に一人聞いてくれればよいという気持ちで始めたのがこの登録会です。立ち止まってくれる人は、以前から気になっていたとか、登録したいと思っていたがどこで出来るか知らなかったという人で、『よい機会をもらった』と話す人も少なくありません」(依光医師)

19年4月から20年3月までの1年間に、高知県内でドナー登録を行った人は468人で、そのうち献血ルームで自主的に登録を行った人は74人。その他の登録はライオンズの登録会によるもので、高知黒潮ライオンズクラブ251人、骨髄バンク推進協議会92人、土佐山田ライオンズクラブ27人、須崎ライオンズクラブ24人となっている。高知黒潮ライオンズクラブが骨髄バンク支援活動を始めた10年前には、高知県のドナー登録数は全国平均を下回っていたが、19年12月末には登録対象年齢(20〜54歳)人口1000人当たりのドナー登録者数が15.21人(全国平均9.38人)になり、全都道府県の中で第10位に入った。これは明らかに、ライオンズの熱意と粘り強い支援が生み出した成果だ。

登録した人と白血球の型が適合する患者が見つかって、実際にドナーとして骨髄提供を行う際には、平均4泊5日の入院や検査で10日前後を要するなど重い負担を背負うことになる。国内で移植を希望する患者に1人以上の適合ドナーが見つかる確率は95%と高いのに対して、実際に移植を受けられる患者は55%にとどまっており、その理由の一つが、仕事が休めないなどで提供を辞退する人がいることだ。

ドナーが提供しやすい環境づくりのために、日本骨髄バンクはドナー助成制度やドナー休暇制度の導入を推進。今年8月の時点で全国604の企業・団体が導入している。高知黒潮ライオンズクラブも08年から会員企業に呼び掛け、現在20社がドナー休暇制度を導入済みだ。今期は、その取り組みを高く評価した酒井公一地区ガバナーがこの制度の推進をガバナー方針の一つに取り上げ、地区内のクラブに協力を呼び掛けている。これによって、四国4県の会員企業に制度への理解が広まることが期待されている。

新型コロナウイルス感染の感染拡大以降、骨髄移植の件数やドナー登録数は落ち込んでいる。高知黒潮ライオンズクラブでも商業施設での登録会が開催出来なくなっているが、感染防止策を取りながら月2〜3回のペースで活動を続けている

高知黒潮ライオンズクラブの骨髄バンク支援が並外れているのは、行政に先駆けて民間の「高知黒潮LC骨髄・末梢血幹細胞提供ドナー助成基金」を設立したことだ。ドナーの経済的な負担を軽減する公的ドナー助成制度は、11年に新潟県加茂市が初めて制定。徐々に広がりを見せ、今年9月半ばまでに全国1741市区町村の約4割に当たる722市区町村が制定している。当初クラブとしては、県内全域での制定を願って県へ働き掛けたが、行政の反応は鈍かった。そこで15年、県内初、民間では全国初のドナー助成制度を独自にスタートさせたのだ。
「県内のドナーが平等に助成を受られるようにするには県下全域で制定する必要がありますが、早期実現は難しい状況でした。諦めかけた時に、うちのクラブが力を結集すれば単独でも出来るかもしれない、とひらめいたんです」(依光医師)

基金の設立計画は、それまでの積立金200万円を源資に助成基金を設け、実際の助成金は全額会員の寄付によるものとし、助成額はドナー一人当たり7万円、期間は県下の全ての自治体が助成制度を制定するまでの5年間未満、というものだった。当時次期クラブ会長として共に設立に携わった坂東伸政元会長は、この提案はクラブ内ですんなり受け入れられたと振り返る。
「命を救うことに直結する助成基金の設立に、反対するメンバーは一人もいませんでした。ドナー登録会で、登録の意志はあるが仕事を休むと収入が途絶えてしまう、といった声を直接聞いていたことが大きいと思います。我々が実績をつくることで、行政の動きを後押ししようという狙いもありました」

その狙い通り、クラブが助成を始めた翌年には土佐清水市が、その翌年には高知県がドナー助成制度を制定。制度を持つ市町村と県が助成金を折半する形が出来た。今では県内34市町村のうち16市町村が制度を設け、これにより県内の登録対象年齢の人の8割以上が助成を受けられる状態になっている。

一方、高知黒潮ライオンズクラブの助成を受けたドナーは、これまでに17人を数える。クラブにはドナー候補になった段階で相談が入るケースもあり、助成制度の存在は提供の決断に少なからぬ影響を与えている。クラブでは公的助成の広がりに伴って助成対象となるドナーが減ることを勘案し、助成額を18年に10万円、今年6月には公的助成並みの14万円に引き上げた。今年は設立時に定めた5年の期限を迎えたが、更に5年間、基金を延長することを決定。設立当初の目的通りに全自治体が制度化するまで継続し、引き続き高知県の骨髄バンク支援の先頭に立って活動することにしている。

2020.10更新(取材/河村智子 写真提供/高知黒潮ライオンズクラブ)