取材リポート 町の新たな発見がある
史跡・文化財を見て歩く会

町の新たな発見がある 史跡・文化財を見て歩く会
※この記事は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で取材活動が行えないことから、過去の取材記事(ライ オン誌2017年7月号クラブ・リポート)に最新情報を加え再編集したものです

自分の住んでいる町について、どのくらい知っているだろうか。何気なく見ていたものが、実は奥深い歴史を持っていたり、見慣れた建造物に意外な由来があったりすることは多いだろう。

例えば、ライオン誌編集部が存在する一般社団法人日本ライオンズの事務所があるのは東京都八重洲(やえす)だ。「八重洲」の地名の由来はオランダ人のヤン・ヨーステンの屋敷があったからだと言われている。そんな八重洲にはヤン・ヨーステン関連のものがいくつかある。まずは日本橋三丁目交差点の中央分離帯にあるヤン・ヨーステン記念碑だ。これは1989年に日蘭修好380年を記念して建てられたもの。また、多くの店が並び、観光客でもにぎわう八重洲地下街にもヤン・ヨーステンの胸像があり、地下街の郵便局で押してもらえる消印(風景印)もヤン・ヨーステンと新幹線をデザインしたものになっていて人気が高い。余談だが、実は東京駅八重洲口の住所は八重洲ではない。実際にはもう少し東側に境界線があり、八重洲口のあたりはまだ丸の内なのである。このように、自分たちが住んでいる町について、少し調べてみるだけでもなかなか面白い。

広島県の東広島市では、このように自分の町のことを知る絶好の機会がある。東広島郷土史研究会が主催し、市内のさまざまな団体が協力している東広島の史跡・文化財を見て歩く会だ。毎年4月29日に開催され、昨年2019年で35回を数えた。残念ながら今年の第36回は新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために中止を決めたが、地元の人はもちろんのこと、県外の人も多く集まる人気のイベントとなっている。

東広島ライオンズクラブ(藤原富雄会長/46人)も歩く会に協力をしている団体の一つである。この催しでは歩くコース上に「関所」と呼ばれるチェックポイントが6カ所あり、そこで押してもらう通行手形を集めてゴールすると、記念品を受け取れるシステムになっている。東広島ライオンズクラブは関所の一つを担当し、毎年メンバーが侍に扮装して参加者を迎えている。他にも東広島ウエスト ライオンズクラブが別の関所を担当し、共にイベントに貢献している。また、東広島ライオンズクラブでは毎年、広島大学に通う留学生を招待している。クラブ・メンバーの半数が関所で参加者を出迎え、もう半数が留学生と全行程一緒に参加するのが通例だ。

東広島の史跡・文化財を見て歩く会のコースは例年約10km。一緒に歩くのもなかなか大変だ。このイベントは参加者全員がまとまって歩くスタイルではない。おのおのが自分のペースで歩いて良いことになっている。そのため、メンバーたちも留学生のペースに合わせて歩いていく。公道を歩くので、万が一のことがないように周囲に気を配るのもメンバーの役割だ。

東広島ウエスト ライオンズクラブも関所を担当

歩くコースは年によって変わるため、毎年参加する人も少なくない。昨年はあいにくの小雨だったが、多くの人が集まり東広島市の西条町寺家を中心としたコースを歩いた。テーマは「変わる寺家~昔と今~」。「寺家」と書いて「じけ」と読む。2000年以前は農地が多かったが、スーパーやカラオケ店などが開業し、近年、人口が増えて町が大きく変化している場所だ。

関所として設定された場所以外でもボランティアが立って解説してくれる所が多く、10kmの長い道のりでも飽きがこない。紙芝居やポスターなどを使って視覚的にも分かりやすく説明されるため、頭に入ってきやすい。昨年の寺家地区のコースでは、室町時代の仏教説話集「三国伝記」に登場する幸熊丸の伝説や、戦国時代に起こった鏡山城での戦いなど、はるか昔の出来事を紹介。それに加え、寺家地区の医療の拠点となっている国立病院機構東広島医療センターの歴史や原爆被災者の救護などもスタート地点の平岩小学校で説明がされた。また、2017年に開業した新駅、JR寺家駅もコースに含まれており、文字通り寺家地区の「昔と今」を体感出来るものとなっていた。

今年はプロ野球球団・広島カープの名付け親である谷川昇氏が生まれた旧西志和村(現・東広島市志和町)を中心としたコースが設定されており、広島藩の軍隊、神機隊の拠点となっていた八条原城などを巡る予定だったが、来年に延期することとなった。

2017年に取材した際は、記者も一緒に参加した。実際に歩いてみると、もちろん体は疲れるが、知的好奇心が刺激されるため、爽快感がある。ボランティアガイドの方々の綿密な下調べと熱意のある語り口に、取材だということも忘れて聞き入ってしまったことを覚えている。一緒に歩いた留学生たちも楽しそうで、時折質問するなど興味を示していた。メンバーとも会話が弾んでおり、良い思い出になったのではないだろうか。

東広島ライオンズクラブの関所(写真:クラブ提供)

現在、外出自粛要請により、家で過ごす人も多いだろう。そんな中、自分の町について少し調べてみるのも良いのではないだろうか。新たな発見があると共に、新型コロナウイルスの収束後に行きたい場所が増えるかもしれない。何気ない町の風景が、少し知識が加わるだけで格段に面白くなる。そんなことを教えてくれた東広島の史跡・文化財を見て歩く会だった。

2020.05更新(記事/井原一樹 撮影/関根則夫)
*写真は2017年4月取材時に撮影したものです