奉仕活動夏の夕暮れ時に響く音
たそがれコンサート

夏の夕暮れ時に響く音 たそがれコンサート

警察の行事に音楽を添える警察音楽隊。今ではパレードなどでおなじみの存在だが、その歴史は戦前にまでさかのぼる。1934年1月に神奈川県警察部警務課内に発足した音楽隊が最初とされており、その後36年に警視庁で、37年には大阪府警察部に音楽隊が発足した。しかし、日中戦争、太平洋戦争が相次いで始まり、多くの隊員が軍に召集された。隊員の補充が出来ず、これらの音楽隊は一時解散を余儀なくされることとなった。45年8月に終戦を迎えると、同年10月には大阪府警音楽隊が再発足。以降、各地に警察音楽隊が次々と出来、80年には鳥取県警音楽隊が設立されて、47都道府県全てに警察音楽隊が編成された。

和歌山県警音楽隊は63年3月27日に創設された。「県民に愛され親しまれる音楽隊」をモットーに県内各地で演奏活動を行っている。70年の大阪万国博覧会を始め、世界リゾート博、全国植樹祭などにも参加。2015年に和歌山で行われた紀の国わかやま国体・わかやま大会でも演奏をするなど活躍の場を広げている。

だが、音楽隊が編成されて間もない70年頃、警察と県民の距離は今ほど近くはなかったという。そこで音楽隊は県民に楽しんでもらえる演奏会を企画した。その際に、協力要請を受けたのが和歌山ライオンズクラブ(竹内和彦会長/51人)だ。以降、48年間にわたり県警音楽隊と二人三脚で演奏会を実施してきた。時間は勤め帰りの人も聴きに来られるように18時から19時。黄昏時に実施することから「たそがれコンサート」と名付け、毎年6月、7月、8月の第2第4金曜日に実施している。場所は和歌山県庁からも近い和歌山県立近代美術館と県立博物館の間のスペースだ。ライオンズクラブは市民と県警との懸け橋のような存在としてコンサートを支え続けてきた。

県警のPRを目的に始めたコンサートだが、今では常連も多く、すっかり地元に定着している。各回300人から500人が集まる。用意していた席が埋まってしまい、立ち見の人も多く出る人気ぶりだ。開演の1時間以上前から来て場所取りをする熱心なファンも多い。また、家族連れの来場者も少なくないため、和歌山ライオンズクラブではおもちゃを用意。来てくれた子どもたちに配っている。

今年は6月28日と29日にG20サミット大阪が日本で初めて開催された。その関係で6月28日に予定されていたたそがれコンサートは中止になった。それまで中止したことはほとんどなく、市民の方から大変残念がられたという。

県警のコンサートであるため、一般的なものとは少し違った内容になる。県警にとっては市民に直接訴える良い機会。その時その時に横行している詐欺などに対する注意喚起の場としても利用されている。ライオンズクラブはそのテーマに沿ったチラシを配布するなどしてサポートしている。

東日本大震災が発生した2011年には募金箱を設置。少しでも被災地を支援しようというライオンズクラブの気持ちに、来場者は多額の寄付という形で応えてくれた。また、たそがれコンサートの支援を通じて和歌山ライオンズクラブと県とのつながりが強まった。その県の仲介で長野ライオンズクラブと姉妹クラブになるなど、和歌山ライオンズクラブの活動を語る上でたそがれコンサートの果たしてきた役割は欠かせないものがある。

今年、7月26日に行われたたそがれコンサートでは商品券の番号を電話で聞き出す特殊詐欺についての寸劇を実施。出演する警察官は大きなカツラと大げさな演技で会場の笑いを誘いつつ、気を付けるべきケースを分かりやすく説明していた。今年は11月に和歌山県でねんりんピック(全国健康福祉祭)が開催されるため、そのテーマソングなども演奏。来場者は手拍子をするなど大盛り上がりだった。

この日は途中で雨が降るアクシデント。屋根がない部分にも客席が置かれていたため、コンサートの途中で客席の場所を急きょ変更することになった。だが、ライオンズクラブのメンバーと音楽隊との呼び掛けで非常にスムーズに移動が完了。屋根の下に入りきれない人もいたが、雨が降っていることを気にもとめず、コンサートを楽しんでいた。

和歌山県警音楽隊の演奏の魅力は和歌山ライオンズクラブが一番よく知っている。その演奏を和歌山市内だけでなく、県内各地に広げていくことは出来ないか。3年前に紀南地域で演奏をしたいという和歌山県警音楽隊の意向を知り、紀伊田辺ライオンズクラブを紹介したことをきっかけに、クラブではそんなことを考えるようになった。市民と県警の懸け橋という役割は十分に果たしてきた和歌山ライオンズクラブ。今度は県内各地に和歌山県警音楽隊の演奏を届ける役割が出来ないか模索中だ。この日、雨が上がった後に懸かった虹のように、和歌山ライオンズクラブは市民と県警音楽隊との大きな懸け橋となって活動していく。

2019.09更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)