取材リポート 共に楽しんできた40年。
これからもずっと

共に楽しんできた40年。これからもずっと

10月5日の日曜日。日本各地に大きな被害を及ぼした台風24号の爪痕が残る中、続けて猛烈な台風25号が日本列島に接近。実施が危ぶまれた「視覚障がい者協会一日のつどい」は、小雨がパラつく中、予定通り行われた。

この催しは、四国中央市で活動する伊予三島ライオンズクラブ(小笠原宜紀会長/39人)が主催する、四国中央市視覚障がい者協会の会員とライオンズ・メンバーによる日帰り旅行。今年で40回目を迎える。2台のバスに分乗して、四国中央市新庁舎を午前8時30分に出発。高速道路に乗り、石鎚山サービスエリアで休憩した後、10時25分に最初の目的地である今治市菊間町のかわら館に到着した。

菊間瓦は、今治市菊間地区で生産される瓦で、皇居造営の御用瓦として献上された他、松山城や今治城など全国各地の城郭や神社仏閣の屋根に用いられてきた。堅牢で排水に優れ、独特のいぶし銀が美しい伊予地方が誇る伝統工芸品だ。今回、参加者はこの菊間瓦に使うのと同じ粘土でオリジナルの瓦作りに挑戦した。ふくろうや鬼瓦など何種類かある型から一つ選び、型に粘土を押し込んでいくのだが、これがなかなか大変。「均等に1.5cmの厚さになるように」と説明されたものの、型に凹凸があるため厚みの加減が難しい。それでも付き添いの人や講師、ライオンズのメンバーらの手を借りて、試行錯誤しながら作品を完成させた。

瓦作りを楽しんだ後は場所を移して昼食タイム。しまなみ海道を望む絶好のロケーションで瀬戸内海の旬の魚介料理を楽しむ。食事に先立ち、伊予三島ライオンズクラブの小笠原会長からあいさつがあり、この旅行が始まった経緯が紹介された。
「今から40年前、視覚障がい者協会に『キャンプを体験してみたい』という方がいらっしゃって、その思いを受け取った当クラブのメンバーが実現に動いたのがこの活動の始まりと聞いています。以来、毎年趣向を変えてライオンズのメンバーと障がい者協会の会員が楽しい時間を共有しています」

近年はバスを利用する日帰り旅行となったが、旅行の趣旨は「普段出来ないような体験をライオンズが寄り添うことで実現する」というもの。当初はライオンズ側から行き先を提案していたが、最近では協会側からのリクエストもあり、それをベースに両者で検討している。

「このバス旅行は、視覚障がい者協会にとっては最大の行事。8月の猛暑の頃から、ライオンズクラブと打ち合わせを重ね、各所の下見も行い、当日を迎えています」とは、視覚障がい者協会の川井千都美会長。視覚障がい者の方が訪れるので、不都合がないかを確認するために必ず現地を下見してから旅程を検討している。

昨年は、岡山市の招き猫美術館で招き猫の絵付けを体験。過去には徳島県で和三盆の型抜き体験や藍染体験、淡路島でアイスクリーム作り体験など、四国及び周辺で体験旅行を行ってきた。中でも小笠原会長が一番印象に残っているのが、9年前の「そり体験」だ。

「本当は参加者にスリル満点のグラススキーを体験してもらいたかったのですが、視覚に障がいがある方には相当な難しさが伴います。そこで、同様のスピード感やスリルを味わえる『そり』に着目しました。安全で、参加者が夢中になれる体験を選ぶよう心掛けています。おかげさまでかつてないほど喜んで頂けました」(小笠原会長)

視覚に障がいがあると普段なかなか外に出る機会がない人も多いと、視覚障がい者協会の篠原ゆうこ副会長は話す。
「このイベントに参加出来ることがどんなにうれしいことか。毎年皆で心待ちにしています。ですから末長く続けて頂きたいと願っています」

参加者がハモニカ演奏を披露してくれるなど大いに盛り上がった昼食会場を後にして、一行は再びバスに乗り込んだ。次の目的地は伊予桜井漆器会館。約250年前から今治市桜井地区で作られている桜井漆器の制作、展示、販売を行う施設だ。元々、紀州の漆器を仕入れて販売していたが、輪島や会津など全国5カ所の産地から職人を招いて漆器の産地となったユニークなルーツを持っている。店頭に展示されている漆器は、手にとって自由に確認出来るとあって、視覚に障がいのある参加者にはうれしい限り。店内には、天皇皇后両陛下ご臨席の下、2017年に開催された愛媛国体の際に両陛下が使用した漆器の展示があり、同じ箸を買い求める人が続出した。

最後の訪問先は、西条市にある四国最大級のJAの直販所。ここで買い物を楽しんだ後、すぐそばのインターから帰路に就く。先ほどの漆器といい、この産直品売り場といい、視覚障がい者の方もライオンズも一緒になって買い物を楽しんでいる。そんな光景を目にすると、小笠原会長もうれしい気持ちになるという。

「我々ライオンズが何かを提供するのではなく、参加者と同じ目線で寄り添い、共に楽しい体験が出来るのがこの旅行のいいところ。参加者の皆さんからの期待も大きいので、今後も継続していきたいと思っています」

2018.11更新(取材•動画/砂山幹博 写真/宮坂恵津子)