取材リポート 野生絶滅のサギソウを
小学生と植え付け

野生絶滅のサギソウを小学生と植え付け

徳島県三好市にある黒沢(くろぞう)湿原は、日本の重要湿地500に選ばれている場所だ。周辺は標高600m程度の山々に囲まれており、湿原自体も標高約550mの場所に位置する。南北2kmに及ぶが、東西は約200mと細長い形の盆地になっており、遊歩道で散策することも出来る。

1600年代に水田開拓がされ、1960年頃までは深い湿田で稲作が行われていた黒沢湿原には400種を超える野草があり、メダカやドジョウなども生息。65年にオオミズゴケの群落や食虫植物とサギソウなどの湿原植物群落が県の天然記念物に指定されるなど、多様な生態系が残されている。しかし、近年ではヨシやススキ、オオミズゴケの繁茂によって植物の生育が阻害され、シカやイノシシによる食害も増加して生態系の保全が課題となっている。心ない人による動植物の持ち去りも深刻な問題だ。

昔から黒沢湿原に自生していたサギソウも数を減らしてしまい、サギソウ自体が県のレッドリストで「野生絶滅」に分類されている。このサギソウ、かつては県のリストで「絶滅」に分類されていた。

阿波池田ライオンズクラブ(大岡清次郎会長/30人)もこの分類変更のために力を貸してきた団体である。1990年代後半、地元の人たちが漆川小学校(現在は廃校)と協力し、湿原の一角にサギソウを移植していた。阿波池田ライオンズクラブは99年からその手伝いをしている。近隣の小学校と共に植え付けをしてきたが、この20年で漆川小学校、出合小学校、川崎小学校が廃校になった。小学校が廃校になる度、他の小学校と協力をしており、現在は三縄小学校の子どもたちと植え付けをしている。

子どもたちは2月にサギソウの球根を育苗ポットに植え、水やりと観察をしながら育てていく。そして6月になって湿原に植え付ける。これが毎年の流れだ。黒沢湿原に元々ないものを持ち込むと生態系を壊してしまうので、育てる際の用土にも気を使わなければならない。ポットに植える際はクラブで用意したミズゴケを利用して育ててもらっている。また、三好市の教育委員会、観光課とも協議をして、環境を破壊しないよう十分配慮している。環境保護を目的とした活動が逆に生態系の破壊につながってしまってはいけないからだ。

例年は3・4年生だけを対象としているが、今年は20周年ということで全校生徒と、三縄幼稚園の子どもたちにも参加してもらい、約600の苗を植え付けた。

この事業は自然環境の保全と共に、青少年の健全育成も目的にしている。当日は子どもたちが自分で苗を運び、植え付けを行う。メンバーは縁の下の力持ちだ。2月に小学校へ持っていく球根も担当のメンバーが育てている。年間を通じて、サギソウの植え付けのためにやらなければいけないことは多い。当日も植え付け場所の選定、足場板の設置などを朝のうちに実施し、子どもたちが植え付ける場所にはあらかじめ穴を掘っておく。上手に植え付けることが出来ない子もいるが、それについてとやかく言うことはしない。自分たちで考えて楽しく出来るような雰囲気を作ることも大切だと考えている。こうして楽しみながら自然と触れ合い、自分たちの古里を大切にする優しい心と、誇りを持ってほしいというのがクラブの考えだ。

植え付けの後にはバーベキューをするのも恒例だ。メンバーが火を起こして肉を焼く。慣れない作業を終えた子どもたちには最高のごちそうだ。食後はゲームもする。こうして、自然と思いっきり触れ合う1日が終わった。

少子化により子どもの数が減少していることが心配だが、クラブが存続する限り、この地に小学校がある限り、この事業を続けていくつもりだ。7月には、サギが羽を広げたような白い奇麗なサギソウの花が咲くだろう。

2019.07更新(取材・動画/井原一樹 写真/関根則夫)